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第265回

ピラミッドは四角錐。

[ 更新 ] 2023.05.10
三月某日 曇
 ジムに行き、少し踊る。
先週エジプトに行ってきたというレッスン仲間から、ピラミッド型の四角錐のチョコレートをひとかけ、もらう。
 ピラミッドの中を見学し、ミイラも安置してあったそう。
「ほんものなの?」
 と聞くと、
「ほんものだったみたい」
 とのこと。
 帰りの電車の中で、たまたま読んでいた本に、ミイラについての記述がある。ピラミッドは、紀元前27世紀にあらわれ、紀元前26世紀なかば頃に最大のものが作られた、とある。
 今から四千年以上も前の死体を見てきたレッスン仲間に思いをはせつつ、夕食後に、ピラミッド型四角錐チョコレートを、ゆっくりと味わう。

三月某日 晴
 ジムに行き、少し踊る。
 わたしは回転が非常に苦手である。
 というか、一度もちゃんと回れたことがない。怖いからである。
 背が高いので、地面から遠くて、ますます怖くなるのでしょうか、と、先生に質問すると、
「いいえ、背の高さと関係なく、みんな、回転は怖いのです」
 との答えが。
 自分だけが怖いのではないと知り、少し安堵。
 その後、自分としてはかなり思いきったスピードで回ってみたが、やはり、怖い。
 (でも、全員が、怖いんだ……)
 と思いながら、傾いたり、途中で減速して止まったりしてしまいながら、何回か、回転に挑戦。

三月某日 曇
 学生時代の友だち四人で集まる。
 コロナの感染が始まって以来、三年以上ぶりである。
 中の一人からの報告。
「ずっとお化粧してなかったけど、この前久しぶりにメイクしてみたの。そしたら、液体状のファンデーションが分離してて、あと、口紅が、へんな味になってた」
 とのこと。

三月某日 晴
 久しぶりに旅にでる。
 一泊で東北方面に行く。
 食堂に入ったら、
「ヒラメバーガーは今日はこちらでは販売していません」
 という張り紙があり、その「ヒラメバーガー」という字づらを見ているうちに、とてつもなく「ヒラメバーガー」が食べたくなる。
 その後、焼きそばとたまごスープの食事を終えて、おみやげ売り場をうろうろしていると、
「親父の小言」という純米酒があり、手に取りそうになるが、我慢する。
「ヒラメバーガー」に、「親父の小言」……。
名前に惹かれて注文や買い物をして、その結果大失敗してきた自分の人生を、走馬灯のように幻視する一瞬。
 でも、「ヒラメバーガー」は、たぶんほんとうにおいしいような気がする。
 あと、お酒のはずれはほぼないこのあたりの地酒、「親父の小言」も。
 夜、地元の知人たちと宴会。
 二十人ほどの中で、自分が一番年上であることが途中でわかり、同時に「親父の小言」の「親父」は、たぶん自分よりも年下の「親父」なのだろうな、と気がつき、悄然……。
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