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第260回

フェイスブックでつながる。

[ 更新 ] 2022.12.09
十月某日 曇
 運動選手に変身できるワクチンを打っている建物が、すぐ近所にあることを知る。
 いろいろな体型の人がすいこまれてゆき、筋肉質な体になって出てくる。
 自分も筋肉質になりたいかも……いや、それ、本気か?……でも三ヵ月くらいなら筋肉質でもいいかも……だけど、筋肉質になったら誰もわたしをわたしと認識してくれないかも……と、思い悩む。
 という夢をみる。

十月某日 晴
 冷やし中華とすいかを食べる。
 いつまでたっても、暑い。

十月某日 雨
 突然寒くなる。
 五十五年ぶりの寒さとのこと。
 でも、大きなすいかの四分の一が、まだ冷蔵庫に入っている。

十月某日 曇
 最近、スパゲティーナポリタンをよくつくる。
 具は、ピーマン、ソーセージ、玉ねぎ。
 それらの量を微妙に変えたり、ケチャップだけでなく醤油をたらしたりして、いろいろ食べてみているのだが、何かが足りない。
 思いついて、今日パスタを朝のうちにゆでておき、時間をおいてから炒めてつくったら、たいへんに昭和な感じのナポリタンになり、自画自賛。
 ちなみに、この昭和なナポリタンは、つまり、スパゲティーがのびた結果、昭和感がかもしだされたわけだが、パスタ文化本家本元のイタリアには、「ゆでたのちしばらく寝かせてのびたパスタを楽しむ」料理は、あるのだろうか。
ご存知の方は、ぜひ平凡社までご一報を。

十月某日 晴
 また暑くなる。
 冷蔵庫でしばらくじっとしていたすいかを取り出し、切り、もくもくと食べる。
 少しゆるくなっていたが、おいしい。今度こそ、これが今年最後のすいかであれよと祈る。

十月某日 晴
 編集者と三人で夕飯を食べに行く。
 おしゃべりしているうちに、たまたま「同姓同名の人と今までに会ったか」という話になる。
 すると、ちょうどそこにお皿を運んできた料理店のご主人が、
「ぼくはねえ、死体遺棄で逮捕された人と同姓同名だったんですよ」
 と言う。
 いわく、逮捕された人は九州の刑務所に入り、その後出所したようなのだが、そこでの人望があったらしく、同じ房に入っていて出所した人たちが、たびたびこの店にやってきては、
「立派に更生して店を開くまでになったあなたに、ぜひ先輩として道を示してほしい」
 と、乞う。
自分は同姓同名なだけで、本人はどうやら関東地方の某所でNPOに属して世のためになることをしているらしい、よかったらそこに行ってみてはどうかと、いつも助言する――。
「店を訪ねてきた人たちとは、今もフェイスブックでつながっていますよ」
と、にこやかに言いながら、ご主人は厨房の方へと去っていったのだった。
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