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第258回

夏休みの自由研究。

[ 更新 ] 2022.10.11
八月某日 晴
 暑い。
 気温を見ると、38℃である。
 足指の先から溶けていくような、あるいは、頭のてっぺんから何かが生えかけているような、気分。
 午後、四回目の新型コロナワクチン接種を受けに、近所のかかりつけ医へ。
 待合室には、ぐったりと椅子の背にもたれた人たちが何人も。接種後の放心のためなのか、あるいは、暑さで、誰もが体のどこかから何かが生えかけているからか。
 夜中、何回か汗をかいて目覚める。

八月某日 曇
 数日前に会って三十分ほど話をした人から、「コロナになりました」という知らせがくる。
 飲みものを飲む時以外は双方ともマスクをしていたが、念のため、家人と家庭内隔離を始める。
 朝から喉がイガイガしていたので、少し心配だったが、一週間前にワクチンを接種したから大丈夫だろう、と、自分に言い聞かせて、夜は早寝する。
 真夜中、喉の痛みで目覚める。熱は37.7度。
 備蓄していた抗原検査キットで調べるも、陰性。

八月某日 曇
 熱は昨日の37.7度から36度台に下がるが、まだ喉が痛い。
 抗原検査キット、陰性。

八月某日 曇
 昨日から引き続き熱はあがらず、喉の痛みもなくなり、やはり新型コロナではなかった……と思いつつ、夏休みの自由研究をおこなっている心もちで、今日も抗原検査キットで調べると、はっきりとした陽性の線が。
 驚いてかかりつけ医に電話すると、
「それはねえ、コロナですよう。たしかに、コロナですよう」
 と、保証してくれる。
 以前、喘息の発作の時に、
「大人のひどい喘息は、ミゼラブルですよう」(『東京日記4 不良になりました。』 「旅のやくそく。」参照)
 と、保証してくれた先生である。
 保証されてなんとなく安心し、布団に倒れこむ。夜、数日ぶりに熟睡。自分は、結果がわからずに待っている時の方がストレスの大きいタイプなのだということを、あらためて認識。

八月某日 曇
 コロナ発症六日め。ワクチンの効き目があったからか、抗原検査で陽性の結果が初めて出た発症三日めから、新型コロナの症状はすっかりなくなり、熱も平熱、喉の痛みもない。それでも、毎日抗原検査キットで陰性か陽性かを調べつづけている。陽性の線が出たのは二日間のみで、その後はふたたび陰性に。
 抗原検査キットは、発症してから三日めくらいにはじめて陽性になることが多い、という論文をネットで見つけたりもし、すっかり本格的な夏休みの自由研究モードに。
 検査ずみの検査キットの棒をずらりと並べ、写真も撮る。
すでに関係者にはコロナを発症したことは伝えてあるので、電話もかかってこないし、メールもほとんどこない。リビングに出ていってだらだらテレビを見ることもないし、散歩にも行けない。
部屋にこもっての読書と仕事以外に、することがない。
仕事はどんどんはかどり、しあげた原稿を、しんとした部屋から、メールでどしどし編集者たちに送りつける。それから、
「夏休みの自由研究」
 と表紙に書いたノートに、今日の検査結果と、思いついたこといろいろ(なぜ猫は物置の屋根が好きなのだろう、隔離期間が終わったらやかんをみがくこと、やぶ蚊は九月の方が、八月よりも元気、それどころか十月も十一月も元気、など)を書きこむ。
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