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第254回

森ガール。

[ 更新 ] 2022.06.07
四月某日 曇
 近所を散歩。
 桜が咲きはじめている。
 のんびりとした気分で歩いていると、通り道の家の玄関先に自転車が止められており、荷台のカゴの中に、つやつやした長ネギが二本、ななめに入れられている。
 たぶんすぐに家の人が取りに出てくるだろうと思い、行き過ぎる。
 しばらく散歩をつづけて三十分ほどたったころ、帰り道に同じ家の前を通ると、まだ長ネギは自転車のカゴの中に放置されたままである。
 もしや、買い物をして荷物はすべて家に持って入ったと勘違いしているのではないかと、心配になる。
 数分迷ったのち、思いきってピンポンをし、
「あの、自転車のカゴの中に、長ネギが二本……」
 と、インターフォンに向かって言い始めたとたんに、
「知ってます!」
 と言われ、インターフォンをがちゃんと切られる。
 倉皇として立ち去る。
 家に帰ってから、小さな声で、
「……知ってましたか……」
 とつぶやき、しばらく、かたまる。

四月某日 曇
 ネットでいろいろなところをさまよっていると、画面の一部に何かの宣伝が出現することに、最初はいちいち驚いていたのだけれど、最近はようやく慣れて、なるほどこれは、わたしがネットで買ったものなどの傾向が反映されて出現するのだな、と、わかるようになった。
 ところが、今日は突然、こんな宣伝があらわれるではないか。
「森ガール服通販です! あなたにぴったり」
 ……森ガール。それはたしか、十数年前にはやった言葉で……と、ウィキペディアを検索してみると、以下の文言が。
「2000年代に流行したファンタスティックな文脈で『森にいそうな女の子』をテーマとする、ゆるく雰囲気のあるモノを好む少女趣味のありよう」
 わたしが最近ネットで買った、九州の少し高価な明太子、トイレマジックリン替えパック四個、バスマジックリン替えパック四個、赤ワイン十本セット1万円、ユニクロのTシャツ二枚、しめつけない靴下三足組、遠藤周作『海と毒薬』『沈黙』から、いったいどのような過程をたどって「森ガール服がぴったり」と、AIから推測されたのだろう……。
「しめつけない靴下三足組」あたりが怪しいか?

四月某日 晴
 庭に、アミガサタケが一本だけ生えているのをみつける。
 たしか去年もアミガサタケが一本だけ生えたのだけれど、場所は、今回生えたところからずいぶん隔たっていた。
 去年の日記を読み返すと、ほぼ同じ日にアミガサタケを見つけている。
 植物の伝播力の強さと生育の時期の正確さに感動し、しばらくアミガサタケをおがむ。

四月某日 雨
 ドラクエウォークのイベントに参加する。
 五十人で力をあわせて一匹の巨大モンスターを倒す、というイベントで、全国津々浦々から、家に居ながらにして画面の中で集合し、協力してモンスターを倒すことができるのである。
 集合して闘いが始まるまでの時間、みんながどのような名前なのかを、じっくり眺める。
 食べもの関係の名前が、あんがい多い。プリン。のりまき。にくまん。メンチカツ。ピクルス。かぶ。レモン。等々。
 その中でも、魚関係の名に、つい目がゆく。ぶり。カツオ。たらこ。イカ。まぐろ。カンパチ。いわし。タイ。ほっけ。イクラ。しまあじ。
 闘いのこの仲間たちが、いつも幸福でありますようにと祈りながら、ぶり、カツオ、たらこ、イカ、まぐろ、とつぶやきつつ、勇んで闘いに飛びこんでゆく。
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