
第259回
最後のすいか。
[ 更新 ] 2022.11.09
銀行に用事があり、久しぶりに外で昼ご飯を食べようかと、用事が終わったあと、町をうろうろする。
よく考えてみると、新型コロナの感染が始まってから、お昼を外で食べたことは、まだ一度もない。
一度入ってみたかった台湾式麺類のお店に入る。
メニューを見る。汁なし麺とスープ。丼と汁麺。小籠包と汁麺。汁麺とちまき。
迷ったすえ、汁なし麺とスープのセットにする。
運ばれてきたものを食べ始めたが、半分でお腹がいっぱいになってしまう。周囲を見回すが、誰も残している人はいない。休み休み食べ、ようやく完食。
腹ごなしのために遠回りをして歩いて帰ったが、やはりお腹はいっぱいだ。これも老化のあらわれか……と、不安に。
けれど、夕飯は、いつも通り食べられた。いったいなぜ外食の昼ご飯で、あれほどお腹がいっぱいになってしまったのか?
釈然としないまま、就寝。

九月某日 晴
家での昼食量を、しばらくの間、はかってみる。
この前の外食時の麺類の量と、ほとんど同じである。
けれど、外食時とはことなり、家でなら楽に食べきれる。
午後、仕事をしている時に、外出する時にはウエストまわりをしめつける服を着ていたことを突然思いだす。
そうか、つまり、ウエストがすぐにきつくなり、食べるのに苦労したのだ……。
ものごとの解決はみたが、こんな単純な因果関係に気がつかなかった自分のぼんやりさ加減と、年々広がってゆくウエスト問題の二点について再確認させられたことで、気分はあまり晴れないまま。
いやな気持ちを発散するため、夕飯では暴飲暴食。満足して、夜は熟睡。
九月某日 曇
今年はすいかをよく食べている。
今日は、近所の八百屋さんで今年四個目の大玉すいかを買った。小玉すいかは、すでに五個食べている。
九月も終わりに近いので、すいかの産地がだんだん南になってきている。この前は松本産だったのだが、今日は鳥取産のすいかである。
「もうそろそろ、最後のすいかですかね」
と、八百屋のおじさんに聞くと、
「そうだねえ、たぶん。夏も終わりだしね」
とのこと。今年最後のすいかを、大切にかかえて家まで帰る。

九月某日 晴
今年最後のすいかを食べ終わり、ふたたび八百屋さんへ。
すいかを、まだ売っている。
おまけに、秋田産である。
突然産地が北上している。でも、まだすいかを売っていたのが嬉しくて、買って帰る。
「今日こそ、最後のすいかですかね」
「そうだと思いますよ」
という会話を、今日おじさんと交わしたその後、十月になっても、十一月になっても、八百屋さんの店先には大玉すいか(産地は、高知、栃木、富山、福島、香川など、暑さ寒さ的な脈絡、なし)がいつまでも並べられつづけることを、この時のわたしは、まだ知らない……。