第13回
寒さに負けずに、の巻
[ 更新 ] 2024.01.19
映し出される景色は私には見慣れた場所ばかりということもあって、〈平野神社〉や〈わら天神〉など、背景を目で追うだけで彼女たちの走りがどれだけのスピードなのかがわかります。
わが家にも高校生がいますが、この娘は選手ひとりひとりが紹介されるたびに「3000メートルのタイムが9分台!」「西大路を北上って高低差すごいのに、このスピードって」「はぁー」と感心ばかりしている。
「速く走ると風が冷たい」という珍説を、小学1、2年生のころから堂々開陳する彼女はとにかく寒いのが苦手なインドア派。この時季は冬ごもりを切望する彼女は、最近凝りはじめた洋服作りの影響もあり、テレビの向こうの選手たちが生地の薄いユニフォームで都大路を力走する姿を「寒くないのかなあ」「あの学校のユニフォームの色合わせ、かわいいなあ」と独自の視点で観戦していました。
私はその横で、選手たちのひたむきさに感動して目頭を熱くしている。子どもとか若い人が何かに一生懸命になっている姿にめっぽう弱いんですよね。
今回もたすきを落としたり、コースを間違えそうになったり、ゴール直前でまさかの逆転劇が起きたりと、テレビで見えるところだけでもハラハラする場面がたくさんあり、どうか全員無事に走りきれますように! と念じるばかりでした。
テレビで中継されるこの本戦を迎えるまでも、それぞれの都道府県ごとにきっときっとたくさんの汗や涙があったはず。それを勝手に想像しては、またティッシュペーパーで目元を押さえる。
それに、アナウンサーさんの言葉もあったかいんですよね。印象的だったのは何度も「出場している学校ごと、選手ごとにも、それぞれの違った目標があります」と繰り返されていたこと。ほんとほんと、その通りですね。勝敗だけが全てではない、というメッセージを伝えることはとても大切。終始選手たちの今日を讃え、未来にもエールを送っておられて、ほんとに良い放送だったとしみじみしました。
もうひとつ。この寒い季節を鮮やかに彩ったのは紅葉でした。京都は12月中旬くらいまで暖かい日が続いたので、自然の彩りの変化、輝くさまもたっぷり楽しむことができたのです。
観光客で大いに賑わった今年の京都。特に紅葉の季節はあちこちでただならぬ混雑が生じますが、実のところ名所旧跡に赴かずとも少し歩いてみれば良きスポット、穴場が見つかる街なのです。
今年の私たちが目指したのは、府立植物園の夜のライトアップでした。11月から数週間、夜間開園が行われているものの、例年だと夜の冷え込みが辛くて出かけようという気になかなかならない私たちでしたが(年間パスポートも持っているのに……)、新型コロナが一定の収束を見せ、家にこもる生活にも飽き飽きし始め、気持ちも上向きになっていたせいか、行こう! といういつにない展開となったのです。
日が早めに沈み出したころ、うちを出て、賀茂川土手から散歩開始。川に映る空の色がオレンジから水色、紫色ときれいなグラデーションを描き、「いいねー」「いいねー」とテンションは上がります。この季節のこの時間がこの川のいちばん美しいときかもしれない。
北大路通り側、いつもの正門から広大な敷地の植物園へ。夜間開園情報がまだまだ浸透していないのか、園内は人が少なめで、とっても静かです。温室まで開いているようで、ガラスのドームがやわらかい光を包みこみ、全体で発光しています。宇宙船みたいね、素敵ね、と見とれる。
昼間とは違った景色。よく知っているはずの場所なのに、夜の植物園はかなりミステリアスな雰囲気で、うっそうとした木々は闇のなかでいつも以上の存在感を放っていました。呼吸しているような、確かに生きている気配を醸し出しているのです。
池の畔のライトアップ。風がないので水面にも木々が映りこんでいます。
園内全てがライトアップされているわけではなく、点在している見どころを、明かりを辿って回っていくというコース作りにも魅力を感じました。光に照らされた紅葉の、その向こうはまた闇なのです。とりわけ複数の池に映し出された幻想的な光景は、まるで夢の世界を歩くみたいな不思議な感覚。もっと早く来たらよかった、また来ようねと確認し合いました。
2024年に開園100周年を迎えるという京都府立植物園。北山通り側の小さくないエリアがアリーナや商業施設の開発でつぶされるかも……という心配なニュースがあるけれど、この先もずっと、多くの方に、そして生きものに愛され、守られますように。
京都へ遊びに来られる方にもぜひ一度は足を運んでもらいたい、とびっきりおすすめの場所です。