第9回
ひと夏の体験、の巻
[ 更新 ] 2023.08.23
うぎゃあ!!
東近江市の夫の実家。夏休み、コンピュータゲームを禁じられるとすぐに退屈を訴えだす小五の息子につき合って、二人で雑魚すくいへ。炎天、熱波がわずかながら収まってきた夕刻です。
いつも行く田んぼ脇の用水路。幅1メートルそこそこの細長い流れだけれど、元気なカワムツがいっぱいいて、どの季節もコンスタントに少年の相手をしてくれるのです。適度に難しく、適度に捕まってくれるのは、ほぼ小魚。あちらも小学生かな。
夕刻といってもまだまだ眩しい斜光を浴びて魚網を振り回す息子のシルエット。アクションは変わらないけど、ぐいぐい大きくなっているなあ。コガネムシ体型からカブトムシ体型になり、いやもう小型犬かな、とこのあいだ思ってたのに、気づけば今やもう中型犬のような雰囲気です。
私の体型は何も変わらず(たぶん)、いつものようにしゃがみこんで、小魚や川エビの入ったバケツの番をしています。用水路は田んぼの泥が流れてきたりこなかったりで、濁ったり澄んだり。今日はちょい濁りで水量たっぷし。藻が多いのは川掃除をしたからか。
ばちゃっ! ん? 何かが大きく跳ねる音がしました。コイかな? 海辺ならボラでしょうが、琵琶湖の近いこの土地ならきっとコイでしょう。私は実は(白状しますと)大きな魚が苦手で、たとえば仲間に誘われてフライフィッシングに行くときも「あまり大きくありませんように」と祈りつつ釣っているのです。隣で教えてくれているコーチの祈りとはまるで違うのです。だからびくびく。
「おーい、でっかいコイがいるみたいだよー」と息子に声をかけると、「わあ!」と目を輝かせて戻ってきました。「水音聞こえなかった? けっこう跳ねたんだよ」「ハクレンかな⁉」「だったらいいねえ」(←本当はよくないと思う母)
二人で水面を眺めていたそのときです。目の前の濁った水から突然ざっばーん! 何か大きな生き物が飛び出しました。細長い水面をぶわーっと10メートル以上も滑走したのです。
うぎゃあ!! 飛んだ!? 腰を抜かしました。何だったと思いますか?
カモです。
どっかから飛んできたカモがエサを獲りに、この狭い用水路に突っ込んだところが、大量発生していた藻類に絡まって、長い時間水中でもがいていたのでしょう。飛び出し方も逃げ方も異常だったから生きるか死ぬかの大パニックだったのだと思いますが、こっちもぎゃー!! ですよ。カモは鴨川でたくさん見ていますが、遠目ではユーモラスな子たちも、こんなに至近距離、予想だにしない遭遇は恐怖以外のなにものでもありません。
心臓ばくばく。おおコワかった。サメ映画の感覚です。息子も目を見開いたまま固まっていたのが面白かったな。室内のゲームでは絶対に得られない感覚ですよね。まあ、よき体験。
そう、夏休みは体験のとき。子どもたちには、この夏もいろんなことをしてもらいたい……いやまず私自身がいろんな体験をしたい、せねば! と、がつがつしてしまう季節。あつあつで、がつがつの8月が来た。
うちの河童(息子)。
子どもたちとは徳島にも行きましたよ。京都からは明石海峡大橋、鳴門大橋を渡って3時間のドライブです。海を見ながらのドライブは最高。徳島市内に一泊、駅前の居酒屋さんでスダチをぎゅっと絞ったカツオ塩タタキと、ハモの天ぷらを頬張って、翌朝は東京からの友達一家と合流し上勝町、神山町へと足を延ばしました。山間のため緑が濃くて、空気がおいしいのなんの。川遊びをしておにぎり食べて、夜はビールで乾杯だ。上勝も神山も素晴らしい地ビールがあるんです。たくさん遊んで地元のものをもりもり食べて、すっかりリフレッシュしました。満天の星も見たし、部屋ではカードゲームも盛り上がったなあ。
上勝では、かねて気になっていた〈ゼロ・ウェイストセンター〉のホテルに泊まり、ごみの分別についてのレクチャーを受け、翌朝は実際に自分の出したごみを捨てる体験もしてきました。
ここはなんと「45分別」、キロ当たり処理するのにどれだけコストがかかるのか、またいくらで買ってもらえるかなど、ひとつひとつに詳しく説明が書いてあって、読むだけでも勉強になる。2家族の大人と子どもで、ポテトチップの袋は油っぽいね、それに裏は銀色だよ? 薬の錠剤の入ったシートにはプラマークがついている、でも裏側はアルミ箔っぽいけど? なんて相談しながら分別に取り組みました。こういうの、好みです。
「消滅型コンポスト」というものも初めて見ました。コンポストは生ごみや落ち葉などを微生物の力で発酵、分解してもらう道具ですが、実はこれにもいろんな種類があるらしいのです。見せてもらったのは非常に簡単な作りで、底板のない箱を地面に置いて、雨水が入らないよう透明のトタン屋根を上にかけ、中に黒土を入れただけのもの。
使い方はスペースを六分割し、一日一日場所をずらしながら台所で出た生ごみを入れていく、たったそれだけなんだとか。堆肥化された内容物を畑などに撒く必要はなく、土の容量が増えて溢れることもないのだそう。「ずっと使っていますが、箱の中の土が増えたなーという実感はないですね。ただ骨付き肉などは、骨だけになってそこからは消えないので、取ってポイします。梅干しの種などもそのまま残ってしまいますね」と。つまりそういう硬いもの以外のほとんどは消滅するということか。不思議だ。
私たちは朝食時に食べたバナナの皮や、コーヒー豆のかす、お茶がらなどと、生ごみを入れていた容器のすすぎ水をしゃっと入れて土に混ぜましたが、特になんの匂いもなく、中で虫がわいている気配もなく、六分割のスペースを一巡してきた場所はさらさらの黒土があるだけなのでした。
これ、私が小学生なら自由研究の課題としたい。そしてこのコンポスト、かなり欲しい。
上勝町ゼロ・ウェイストセンターは夜もかっこいいのであります。
夏休みが楽しいのはいつもより余裕=まあまあたくさん時間があるからだろうな。たっぷりの自由な時間と、まずは動くという選択が「体験」にはとても大事だなと思います。
余談。冒頭の話に戻りますが、カモ事件の翌朝、また息子が一人で用水路に向かいました。コワがりのくせして気にはなるみたいで「様子を見にいくよ」と。何の「様子」でしょう?
早めに帰ってきた息子が言いました。「何もいなかったけど、鳥の羽根が藻にいっぱいくっついて、ぷかぷか浮いていたよ」
コワ。そんな報告、いらないんだけどな。