第6回
コーヒーかワインか
[ 更新 ] 2022.10.15
それには理由がある。ぼくは夜遅くに出歩くのが得意ではない。歴史が夜つくられるものならば、ぼくは歴史がつくられる現場をほとんど見ていないことになるが、それで構わないと思っているほど、夜はできるだけ早く家に帰り、シャワーを浴びて寝てしまうのだ。〈ワルツ〉はとても好きな店だが、家からは少しだけ遠く、開店時間がぼくからするとちょっと遅い。たしか19時だったと思う(いまは18時オープンに変わっている)。たまに覗いてみるのだが、折悪しくマスターの出勤が遅れているときに当たったりして、なかなかここで飲むことができないのが続いた。それが、コーヒーを出す日ならば、15時から始まる。つまり好都合なのである。
〈ワルツ〉は好きなのに、なかなか行けないワインバーだった。マスターのことも大好きなんだけどね。
金曜日と土曜日の午後3時から〈プレイタイム・カフェ〉という名前でAちゃんがコーヒーを出してくれる。
ある日、〈プレイタイム・カフェ〉に行ったら、カウンター脇の冷蔵庫の上にターンテーブルが置いてあった。いつの間にか〈ワルツ〉はレコードをかけるようになっていたのだ。そして、店が開いてすぐだからか、配送の人と出くわすことが続いた。マスターが通信販売でレコードを注文しているようなのだ。セレクトがなかなか面白い。その日も包みを開けるのを横から見ていたら、ジュディ・シルのレコードが出てきた。有名なファーストアルバムではなく、セカンドのほうだ。思わず、それをかけてよとお願いする。ファーストはなかなかのレア盤で値段も高く、いまだに持っていない。さらにセカンドにいたっては聴いたことすらないのだ。まさかここで聴けるとは思ってもみなかった。
ここで聴けるとは思わなかった名盤。ジュディ・シルのセカンドアルバム(1973年)
Aちゃんがジャケットからレコードを取り出して、ターンテーブルにのせた。なんだかドキドキする。ゆったりとしたテンポのカントリー・フレイヴァー溢れる曲が流れ出した。ワインをお代わりする。