第273回
詩人ではない。
[ 更新 ] 2024.01.10
十一月に入り、庭の大量の落葉を掃く毎日だが、今日の最高気温の予報は、25℃。
夏日である。
半そでに薄手のスカート姿で、かさかさかさかさと、秋冷の晩秋のものであるべき落葉を掃いている自分が、怪しい。
十一月某日 雨のち曇
今日も、かさかさと落葉を掃く。
そして今日も、夏日の予報。
半そででむきだしになっている腕を、大きなやぶ蚊が刺し、血を吸ってゆく。
十一月某日 曇
今日もかさかさと落葉を掃くが、突然、最高気温の予報は11℃に。
数日前の夏日の半分以下である。
でも、蚊はまだぶんぶん飛んでいて、ただしもう長そでを身につけているので、腕は刺されず、かわりに首すじをたくさん刺される
十一月某日 曇
この前まで、もわりと熱くてうっとうしかったぬか床が、かきまわすと温かくてほっとするものに変化している。
最高気温の予報は、14℃。
十一月某日 晴
最高気温の上下に振り回された今月も、あと少しで終わろうとしている。
ようやく低めの気温で安定してきたので、服の入れ替え。
つい数日前まで、遠目でも見たくなかった毛織物に、たいそうな親しみを感じている自分が、怪しい。
十一月某日 晴
電車に乗る。
カップルが並んで座っている。
座席の途中にある棒をはさんで、座っている。
「この棒が、ぼくらの間の距離なんだね」
と、カップルの男性が女性にささやいている。
それはいったい、距離があって難儀だということなのか、あるいはそれしか距離がなくてすばらしいということなのか、あるいは心地よく適正で冷徹な距離であるということなのか、そもそも棒のどのあたりが(直径、長さ、銀色の光り具合など)距離を表現しているのか、男性に聞きたくてしかたないのを、必死にこらえる。
自分はつくづく詩人ではなく散文を書く人間なのだなあと、電車をおりたあとで、少し反省。