ウェブ平凡 web heibon




第270回

猛暑です。

[ 更新 ] 2023.10.12
八月某日 晴
 先月からおびえながらも、目をそむけて逃避しつづけていた五十肩問題が、どんどん大きくなっている。
 右肩を上げたり下げたりするとびくっと痛いし、腕をのばしてものを取ろうとすると、びりびりと痛い。
 五十肩経験者に聞くと、やはりこれは五十肩の症状であり、たとえばたんに寝ちがえた、だの、筋肉痛である、ということとははっきりと異なっていると、口をそろえて言う。
 ちぇっ、と言いながら、時々行っている整体の診療所の予約をとる。
 腕をただ垂らしているだけでも、何か腕が重いので、逃避するために、散歩。でも、歩くときに右腕をふると痛いので、左腕だけふって歩く。
 バランスがとれず、少しずつななめ右方向にずれていってしまい、でも、それがちょっと面白くて、車の来ない道にゆき、ななめ右方向への歩行を楽しむ。
 連日の猛暑なので、散歩は二十分ほどで切り上げる。

八月某日 晴
 整体の先生にいろいろあれこれしてもらい、痛みがだいぶ減る。
「カワカミさんはもともと巻き肩ぎみなのですが、痛みでますます巻き肩になっていますね」とのこと。
 巻き肩にならないよう、テーピングをしてもらう。
 帰宅してテーピングされた背中を見たら、曲線状にテープがはりめぐらされていて、ほー、と思う。かたちが、何かに似ている。でも、思いだせない。
 眠りにつく前に、突然、思いだす。折紙の、「ちょうちん」だ!
 猛暑で、夜中、数回めざめる。そのたびに、「ちょうちん」を思いうかべ、無事、再度の入眠をはたす。

八月某日 晴
 ちょうちんを背中から腕にはりつけたまま、ジムに踊りにゆく。
 右腕が上がらないのです。と、先生に断り、右腕はぶらぶらさせたまま踊ろうとしてみるが、やはりバランスがよくなくて、腕が何ともない時も元々踊りになっていなかったのが、ますます不審な動きしかできない。
 でも、着ているシャツからはみ出て見えている腕部分のテープに、ジムのおどり仲間が、
「わあ、いっぱいはりめぐらせてある」
 と感心してくれたので、満足。
 夕方になっても猛暑なので、いつもは使わないバスを使い、帰宅。

八月某日 晴
 整体の先生から教わった「五十肩体操」を毎日おこなっているからか、少し腕が楽になる。
 そろそろテープのはしっこがはがれてきたので、午前中に、全体をはがす。
 テープがはってあった部分の皮膚が、少しふよふよしている。
 夜、お風呂に入る時にみたら、ふよふよはなくなっており、まわりの皮膚とすっかり同化していて、つまらない。
 同化した皮膚を、せっけんで、ごしごし洗う。猛暑は、まだ続いている。昼間暑すぎるからか、明るいうちはしんとしているセミが、夜になると、よく鳴いている。
SHARE