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第4回

おすもうさんの「親方株問題」から「高齢者の再雇用」について考えた その①

[ 更新 ] 2023.12.08
くすぶり続ける「親方株問題」

 しばらく更新期間が空いてしまいました、すみません。バタバタしていたらアッという間に時が流れ、あれよあれよと9月場所が終わり、一年収めの11月場所もあああっ……。「本場所」で時の流れを知って焦る相撲ヲタ、和田です。反省です。

 さて、今回は相撲界でここ最近ずっとくすぶっている「親方株」問題について考えてみたい。って、「それはもう昔からずっとくすぶってる、今さらだろ?」とおっしゃりたい好角家の方、ちょっと椅子に座っててもらってもいいですか、ええ。

 親方株問題、たしかにずっと問われ続けている。「裏で億単位のお金が飛び交う」とか、「大相撲界における諸悪の根源」とか、「アンタッチャブルな世界だ」とさまざま言われる。「和田さん、だから止めておいた方がいいだろう?」と椅子から身を乗り出す好角家の方、とりあえず落ち着いて座っててください。

 ちなみに親方株とは正式には「年寄名跡(としよりみょうせき)」と言い、「現役を引退した力士は、この年寄名跡を襲名継承して初めて協会の年寄になることができる」(『相撲大事典』現代書館)というもの。
 じゃ、「年寄」とは? というと、日本相撲協会が定めている「資格」で、「年寄は協会の理事をはじめとする各種の役職(監事・委員・主任など)を担当する資格を有し、弟子を養成する義務がある」(同書より)という。

 そして「年寄」を襲名するには「年寄名跡襲名・継承届を協会に提出して、理事会の詮衡(せんこう)と議決を経た後に年寄名簿に登録される。年寄名跡の襲名継承資格は、日本国籍を有する者で、幕内を通算二〇場所以上、幕内・十枚目(関取)を通算三〇場所以上、三役を一場所以上、また、横綱・大関をつとめた力士に限られる」(同書より)だという。この「日本国籍」云々のところに関しては、後日たっぷり語りたいので、今日は横に置いとかせてください。

 さて、その「年寄名跡は」2023年現在では「定数105、未襲名(空き)名跡1」だと、wiki先生が教えてくれた。そうか、年寄って、そんなにいるのかぁ~と驚く。驚くが、しかし、その年寄名跡=親方株が足りない!  のだそう。そして、足りないが故にここ最近ずっと、くすぶってるんだ、問題が、ええ。

   

「親方株」を取得できないおすもうさんたち

 何がどうくすぶっているのかというと、「現役最年長」を誇り、突き押しの激しい相撲をするコワモテだけど実は優しい、ドトールでくつろぐ自分をSNSにあげる際の言葉選びのセンスも抜群だった(紹介、長っ!)松鳳山が2022年6月に引退した折、「年寄名跡取得のメドが立たなかった」として相撲界から去ることになってしまった、こと。

 さらに2020年4月に現役を引退していた元関脇の豊ノ島が、すでに井筒親方となっていた2023年1月に突如、相撲界から退いてタレントとして活動することになった。豊ノ島といえば小柄ながらも技巧派、地元の高知県で子どもたちの相撲大会「豊ノ島杯」を開き、いっこく堂顔負けの芸達者ぶりを見せ、「豊ノ島っていいよね~」ってのが私たち相撲ファンの「合言葉」のようになっていたのに(と、また紹介長っ!)。

 ふたりとも、相撲界の未来にすごく大切な逸材だ。親方となって、すばらしいおすもうさんたちを育てるだろうと期待されていた。なのに、なのに、相撲界から去ることになってしまった。それもこれも、年寄株が足りないから!という。なるほど、それはくすぶるわ、と納得する。

 さらには2021年3月に現役を引退した横綱鶴竜が、2023年現在においても「親方株を取得できてない」ので、「横綱は現役名のまま5年間限定で相撲界に残れる」という宙ぶらりんの状態にあって私たちをハラハラさせっ放しであることも、くすぶる大きな火種だ。どうしてそんなことになっているのか? 

 本来、幕内上位で活躍した力士は部屋の師匠から順繰りに「年寄名跡」をもらえ、代わりに師匠亡き後は残された家族の面倒を看るとか、そういうシステムのはずだった。情けとか、義理とか、そういう世界。それが徐々に「お金でしょう!」になって、「年寄名跡」は買い取り! があたりまえとなった。相撲協会は公益財団法人であり、本来そんなことNGのはずなのに、そういうことがまかり通ってるというのが実情らしい。

 それやこれやで“億単位のお金が飛び交うとか、大相撲界における諸悪の根源とか、アンタッチャブルな世界”になってしまった。そして、今、その根源にもっと大変な問題が横たわっているんだという。

   

問題の根源は「再雇用制度」にあり!?

 問題とは2014年11月に決まった、希望すれば「65歳の定年退職後も70歳まで再雇用する」制度にあるという。2023年現在、65歳以上の親方5人が参与という立場で再雇用されていて、これによって年寄名跡の循環が悪くなったという。名跡の数は「105」で決まっていて、不足するようになった。

 そして65歳から70歳までの再雇用期間の親方の給与は、それまで受け取っていた給与の70%とされ、5年間で約4000万円になる。もし「65歳ですっぱり引退して、現役のおすもうさんに年寄名跡を譲りますよ」という親方には、年寄株が欲しいおすもうさん側は、その4000万円を上乗せして支払う必要も出てきちゃったんだという。マジか? それって、今のこの物価高、円安、格差拡大、貧困、ワーキングプア、「経済対策は私の最重要課題」と言いながら何も効果的なことはしない岸田総理大臣と、問題山盛りの中、ちょっとそれはないだろう? と真剣に思う。

 それでこれで、65歳でいちど定年退職した後も、再雇用で70歳まで親方たちが居続ける。だから、年寄株が足りない。あたりまえだ。しかも昔の親方たちと違って今の親方たちは健康寿命が延びて、70歳でも笑顔で働ける。うーむ。相撲ファンたちはこれに今、恨み節を炸裂させている。

 たとえば「(再雇用は)既得権益以外のなにものでもない」とか、「若い親方を増やしてほしい」とか、「残れる人もいれば実績があるのに残れない人もいるのは不平等すぎない?」とか、「このままだと協会は逸材の親方を失いかねない」とか、「親方の再雇用制度を考え直してほしい」とか。

 また「再雇用はしても年寄の名前じゃなく、現役のときの四股名で残ればいいんじゃ?」という案も出ている。でも、そうすると仮・年寄のような人数が増えて協会としてお給料払えません! と無理になるんだそう。「(それまでの給料の)70%とされ、5年間で約4000万円」としても、そうそうバンバン出せないっちゅうことで。

おすもうさんって誰に雇用されているの?

 じゃ、高齢親方の再雇用では給料は半分以下の「5年で1千500万、1年で300万」ほどまでグングン下げて、現役のときの四股名でやればいいんじゃ? と和田案を申し述べたい。だって現在、「5年で4千万、1年で800万円」の賃金をもらうほど、再雇用の親方たちって働いてるの? と思うから。いち相撲ファンの私には、再雇用親方たちがサクサクと働く姿が見えてこない。協会にどういう貢献をしてるのかしらん?

 実は大相撲界、昨今はYouTube配信の「親方ちゃんねる」が大人気だ。そこから派生して親方グッズが販売され、現役力士に負けないほど「親方人気」が炸裂している。親方たちが中心になって、2022年には「ファン感謝祭」まで開かれた。またまた新たな鉱脈を発掘してるのが、さすが江戸時代から続く興行という底力のある大相撲界だと思うのだが、しかし、それとて、あくまで「若手」の30代、40代の親方たちのアイディアであり、頑張りであり、功績であり! そこで再雇用親方たちが何かしてるか? って言うと、特には……。分からないけどさ……。ええ。

 モヤモヤモヤモヤ……。果てしなくモヤる。考えてみると、そもそも再雇用っていうけど、親方って誰に雇用されているの? 親方は「部屋」を持っているんだから、フランチャイズとか個人事業主には当たらないの? じゃ、現役のおすもうさんはどうなの? 

 あれこれ分からないことだらけになった。「親方株」問題について考えたのに、雇用そのものが分からなくなった。じゃ、プロに尋ねましょう! ということで、労働運動家で、「全国コミュニティ・ユニオン連合会(JCUF・全国ユニオン)」の会長、「東京管理職ユニオン」の執行委員長、労働問題のプロ中のプロである鈴木剛さんを訪ねることにした。実は鈴木さんが「大の相撲好き」なのは、以前から耳にしていたのだ。ふふふ。

   

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