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第305回

勝利の雄たけび。

[ 更新 ] 2026.09.11
七月某日 晴
 近所の公園を散歩する。
 露店が出ているので、ゆっくり眺めながら歩く。
 オリジナルのドクロ製品ばかりを売っている露店があるので、立ち止まる。ドクロのかたちの灰皿。ドクロのかたちのランプ。ドクロのかたちの花瓶。ドクロがぎっしりかさなっているオブジェ。などなどが、机の上にところせましと並べられている。
 友だちがドクロ好きなので、黄色くて小さなドクロの置きものを、おみやげ用に一つ買う。
 友だちには、「Skull-A-Day」というブログを、十二年ほど前に教えてもらい、当時は毎日のように見ていた。さまざまなドクロオブジェの写真を載せたブログであり、そのドクロ愛に、毎回感銘を受けたものだった。
 久しぶりにドクロブログを見たくなり、帰ってからパソコンを開く。最盛期ほどの量の写真は載っていなかったが、今も続いており、ドクロ写真の本も出版されたようで、とても嬉しい。

七月某日 曇
 東京から京都までの新幹線の切符を、生まれてはじめてネットで予約する。
 うまく予約できるかどうか、とても不安だったのだけれど、なんとかできたもよう。

七月某日 曇
 ネット予約の時に指定しておいたSuicaで、新幹線の改札口を通る。
紙の切符ではなくSuicaを改札にかざすだけでいいとネットには書いてあったのだが、ほんとうにそれで新幹線乗り場に入場できるのだか、とても不安。
 どぎまぎしながら、改札にそっとSuicaをかざすと、ぴゅっと紙が出てきて、予約した座席の番号などが書いてある。
 できた! と、ほくほくしながらホームに上がる。
 ホームに入ってきたのは、しかし、予約したと思いこんでいたのぞみではなく、ひかりだった。えっ、と、またどぎまぎしながら予約画面を見直すと、確かにひかりを予約している。
 緊張のあまり、ひかりなのだかのぞみなのだか、予約時に区別できていなかったらしい。
 がっくりしながら、混みあった車内の予約した席に座り、窓の外を眺めながら、反省。駅の構内放送では、しきりに「今日はすべての指摘席が満席ですので、ご注意ください」と言っている。
 発車してからも、ずっと反省。ひかりなので、たくさんの駅に止まる。どんどん乗客が降りてゆく。はっと気がつくと浜松で、車両の中には、数人の乗客しか残っていない。
 ひかりは、こんなにも空くんだ!
今ごろ近い時刻に発車したのぞみは、このひかりには先んじているだろうけれど、ぎっしり人がいて、お手洗いも混みあっていて、通路側の人に立ってもらわなければゴミを捨てに行くこともできないのだ! と、勝利の雄たけびを、心の中であげる。

七月某日 雨
 昔書いた掌編がアニメーション化されることになり、その録音のため、出かけてゆく。
 これまでにも、一人の小説家と一人の詩人の作品がアニメーション化されているシリーズの第三弾となる予定で、どれも、アニメーションと共に、作者がその作品を全文朗読した音声が流れるというかたちの、数分間のアニメーションシリーズである。
 ブースの中に入り、朗読開始。アニメーションを作ってくださる作家のかたは、ブースの外に座り、わたしの朗読を聞きながら、一段落読むごとに、マイクでさまざまな指示をしてくれることになっている。
自分の書いたものを朗読するのがとても不得意なので 一刻も早く終わるようにと、早口でどんどん読む。案の定、「もっとゆっくり読んでください」という指示がくる。
 ゆっくり読んでみるが、まだゆっくりさが足りないらしい。
 さらにゆっくり読むが、まだ足りない。
 ようやくアニメーション作家のかたの指示どおりのゆっくりさ加減で読むことができるようになったけれど、その朗読を聞き返してみると、どう聞いても、「プロジェクトX」の田口トモロヲのナレーションそっくりである。
 そうか、あの、少しばかり抑揚に欠けるAIふうなナレーションは「ゆっくりていねいに」を体現していたのかと、目が開かされる思いであると同時に、自分が「ゆっくりしゃべるAI」になってしまったような錯覚をおぼえながら、二時間ほどかけて朗読を終え、疲労困憊。
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