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第300回

すばやい動物。

[ 更新 ] 2026.04.21
二月某日 曇
 今年はじめての雪が降ったので、衆議院選挙の投票をしてから、雪だるまがたくさん作られていそうなところをさがしながら、散歩へ。
 東京に雪が降る機会は多くないけれど、年々凝った雪だるまが作られるようになっている気がする。
 今回はじめて見たのは、熊の顔の雪だるま、ほつもそなえている仏陀の雪だるま、巻き糞ようの雪だるま(雪だるまといおうか雪オブジェといおうか)、棒人間の顔の雪だるま、など。
 日本式の二段雪だるまだけではなく、外国仕様の三段雪だるまが増えていることにも気がつく。
 たくさん撮った雪だるまの写真を、友だちに送る。
「うんちが交じっているよ」
 という返事が来たので、
「うん、たしかに交じっていました」
 と返す。
 夜、テレビの選挙速報をつけたとたんに「あう」という叫びが口をつき、しばらく気を静めたのち、しみじみと巻き糞様雪だるまの写真を見返す。

二月某日 晴
 絵の展覧会へ。
 人形の、たましいのような、おもかげのようなものを、手に持っている人の絵に惹かれて、じっと絵の前に立ちつくす。
 選挙速報を見た時の「あう」という自分の声が、頭の中によみがえるのを感じつつ、人形の、たましいのような、おもかげのような、不明なものに、じっと見入る。

二月某日 曇
 コンビニエンスストアで、唐揚げのたぐいを買おうと思い、唐揚げを展示してあるガラスの棚の前で、じっと迷う。ガラスの棚の横にはレジがあるが、レジに並ぶ人たちの邪魔にならないよう、身を縮め、じっくりと迷う。
 すると、突然
「あんた、横入りするなよ」
 という怒鳴り声がしたので、見ると、どうやらわたしに向かって怒鳴っているらしき男性(五十代くらいか?)がいるではないか。
 ガラス棚前は、レジに並んでいる人の列とは違う場所にあるし、レジの前にずかずか入りこんだわけでもないし、通行の邪魔にも、たぶんなっていない。
 少し前にコンビニで体験した「年よりがぐずぐずしていることにいら立つ店員」からの言葉(「東京日記」第286回参照)よりも、さらに激しい「突然、怒鳴られる」という体験に驚きつつ、少しばかりわくわくしつつ、
「えと、レジには並んでいないので、ご安心ください」
 と答えると、男性は一瞬ひるんだのち、
「でかいなりして、とにかく邪魔なんだよっ」
 と、さらに大きな声で怒鳴り、すばやい動物のように、さささささーっとコンビニから出ていってしまった。
 たしかにわたしはでかいなり(身長175センチ)だし、ガラス棚はレジと違う場所とはいえ、ごく近くにあるし、邪魔だったのかなと想像できはするが、それよりも「まちがって怒鳴ってしまった」という恥ずかしさのほうが、「怒鳴ってしまった」という感情むきだしの行為よりもさらに身のおきどころのなさが激しいのではないかと推測し、それならばなぜもっとよく確認してから怒鳴らないのだろうか、あるいは冷徹に注意をしないのだろうかと不思議に思いながらも、怒鳴ってしまうという人間の感情の動きのしくみは、そのように悠長に発動されるものではないのだろうなと納得もし……と、あれこれ考えながら、その後買った鶏系の揚げ物のあたたかさをエコバッグごしに感じながら、家路をたどる。
 けっこういろいろ考えている自分が、思ったよりも「怒鳴られた」という事実に衝撃を受けていることが少しくやしいが、いろいろ考えられたので、よしとする。
 鶏系の揚げ物は、とてもおいしかったです。

二月某日 曇
 出版社で、対談。
 たいそう楽しかったうえに、後日送られてきた対談相手と二人で並んで立ってうつっている写真が、ほぼ線対象で、さらに嬉しくなる。
 二人並んで立つ写真の場合、カメラに向かって体の正面をまっすぐに向けるのではなく、たいがい「少しななめに向かいあってください」と言われるのだが、「ななめ」の角度がきっちり揃うことは、ほぼない。のに、今回は両者が正面に対して共に約78°をとっていて、二人できれいな二等辺三角形をつくっている。奇跡的である。
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