第303回
開封動画。
[ 更新 ] 2026.07.10
東京駅の近くにある美術館に行く。
古い茶道具やお皿などを展示してあり、それらのお皿や鉢に、当代の名料理人のつくった料理が盛られている写真なども一緒に展示してある。
まじまじと料理を見つめる。お皿や鉢そのものよりも、料理写真の前に長くたたずむ自分を、斜め上から「現世ご利益が好きなタイプだよね」と、ひややかに見ているもう一人の自分がいるが、全然気にならない。
足利義満に見いだされたという茶入(ちゃいれ)「つくもなす」も、展示されている。この茶入、次々に数寄者の手に渡ってゆき、途中、本能寺ではその時の持ち主だった織田信長と共に罹災し、豊臣秀吉を経て持ち主となった豊臣秀頼のもとでは大坂城で罹災し、やがて徳川家康の手に渡り、さらに岩崎彌之助からその子孫の手に……と、大河ドラマの主人公になりそうな茶入である。

五月某日 晴
友だちからラインが来る。
「昨日、青森県にある縄文遺跡を見るために、青森の友だちの車に乗せてもらって走っていたら、親子連れの熊が、道路に飛び出してきました。生まれてはじめての熊との遭遇でしたが、青森の友だちも、はじめて熊とはちあわせしたそうです」
友だちは、東京在住。熊の親子連れは、そののち、いそいで森に走り戻っていったそうです。
五月某日 小雨
岩手県に行く。
石川啄木記念館を見学する。
入口の自動ドアに、
「近隣に熊が出るので、自動ドアは手動にしてあります。入ったらすぐに閉めてください」
と、ある。
ドアを開け、すぐに閉めると、記念館の方がにこにこしながら、
「でもね、啄木記念館の敷地内には、まだ熊は出ていませんからご安心ください」
と。
帰りの電車の中で、友だちに自動ドアのことをラインしたら、
「卒業した高校の敷地に、この前熊が出たよ」
との返事が。
日本中、熊だらけである。デビュー作の書き出しが「くまにさそわれて散歩に出る」である自分としては、「何に申し訳ないのかうまく言えないけれど、何かとても申し訳ない」と感じざるを得ない日々である。

五月某日 晴
新宿で映画を一本見たあと、近くにある美術館に行って、絵をたくさん見る。
休日で、街にはたくさん人が出ているけれど、映画館の中も、美術館の中も、ふつうの道を歩く速度の半分以下の速さでみんなが歩いている。ぶつかってくる人もいないし、しゅっと追いこす人もいなくて、体の輪郭がゆるんでいく心地。
ミュージアムショップで、はにわマグネットを購入。
五月某日 曇
小学生の娘さんがネットの動画をずっと見続けているのが悩みだと知人が言うので、どんな動画なのか聞くと、
「開封動画です」
とのこと。
買ってきたものの包みを、ゆっくりとていねいに開封し、なかみを並べる、という動画を、娘さんは延々見ている由。
自分もぜひ見てみたいと思うが、真剣に悩んでいる知人には、言いだせず。

