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第284回

新鮮な胃。

[ 更新 ] 2024.12.10
十月某日 晴
 同業の友人に会う。
 少し前に、生まれてはじめての胃カメラを飲んだ話となる。
「結果は、どうでした?」
 と聞くと、
「こんなに新鮮な胃は、はじめて見た、と、ほめられました」
 とのこと。
 新鮮な胃!
 ちなみに、友人は五十代のはじめ。なにか、とても、うらやましい。

十月某日 晴
 ジムに踊りに行く。
 このところ、仕事でしばらく行けていなかったので、たいがいの動きを忘れてしまっているが、続けて行っている時も、たいがいの動きを毎週忘れるので、あまり変わりはない。
 終わってからみんなでストレッチをしながら、なんとなくお喋り。
「この前ね、窓を開けておいたら、食卓に、まっさおなカメムシが飛んできたの。ものすごく、まっさおで、カメムシはそんなに好きじゃないけど、なんだか、感心した」
 と言う人あり。

十月某日 曇
 大河ドラマを、この十数年ほどよく見ているのだが、後白河天皇との争いにやぶれ、讃岐に配流された崇徳上皇の役を演じた俳優のことが、いまだになつかしくて忘れられない。
 今クールも、ドラマに出演しているので、じっと見入る。
 崇徳上皇を演じはしたが、ドラマ『モンテ・クリスト伯』の検事総長役をした俳優のように、「徹頭徹尾検事総長だ」(東京日記第256回参照)としか思えなくなるのではなく、ただ、「崇徳上皇だったよなあ」と、遠くうすぼんやりと思いながら、なつかしく思うのである。
 日本三大怨霊のうちの一人である崇徳上皇を、いかにも三大怨霊の一人になりそうな迫真の演技で演じきったその俳優は、現在は、気が弱めでお人よしのサラリーマンを演じている。
 三大怨霊だったけれど、今世ではお人よしのサラリーマンになれたんだね、よかったね……と、しんみりしながら視聴。
 ちなみに、検事総長も、少し前のドラマで、気弱な未来人を演じていて、顔つきどころか体つきまですっかり違って見えていたので、「徹頭徹尾検事総長」も、少しゆらいでいる昨今である。

十月某日 晴
 水道のメーターを交換するお兄さんが来る。
 闊達で晴れやかなお兄さんである。
 交換が終わり、去り際、
「庭にね、スズメバチがいますよ。気をつけてくださいね」
 と言われる。
「スズメバチ? どうしましょう」
 と驚くと、
「住んでる感じじゃないから、いいんじゃないですかね。遊びに来てる感じですし」
 とのこと。
 いいのか……。
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