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第281回

変温動物。

[ 更新 ] 2024.09.11
七月某日 晴
 たいへんに暑い日々がやってきている。
 最高気温が37℃、38℃といった予報が出るようになり、身も心も汗で湿りきる心地。
 夜中、目が覚めると、いつもよりさらに大量に汗をかいていて、何やら息苦しくもあるので、驚いて起き上がり、ふらふらと廊下に出てゆくと、廊下がいくぶんか涼しい。
 ということは、と、寝室に戻ると、エアコンから出てくる空気が暖かく、あわててリモコンを調べるが、温度設定はいつもの通りで「冷房」が表示されている。
 使いはじめてから十五年近くたつエアコンが、いよいよお釈迦となったらしい。
 夏がけ、枕を持ち、小さな和室へ。客用の布団をだし、窓をあけ、夜明けがたまで何回も目を覚ましつつ、うとうとする。
 夜が明け、夢であったらいいのにと願いつつ、もう一度寝室のエアコンをつけてみるが、やはり暖かな空気が出てくるのみ。

七月某日 晴
 寝室のエアコンが壊れて十二日。
 ようやく新しいエアコンの取り付け日となる。
 寝室難民となった家人と二人、家の中のエアコンのある部屋を漂流する日々も、ようやくこれで終わりを告げるとなると、漂流した日々がほんの少しなつかしくなるが、新しいエアコンを使うなり、すぐさまなつかしさは霧消。
 新しいエアコンからの風は、今までのものよりもずっとさりげなく、また、世間のみなさまの言う「就寝時は除湿モードで」ということの意味も、ようやくわかる。29℃設定の除湿モードが、これほど涼しくかつ体に負担なく、つまり暑くも寒くもなく、快適だとは。
 去ってゆくエアコンには、静かにかつ無感情に、別れを告げる。以前去っていった冷蔵庫に対するほどの別れを惜しむ熱意がないのは、たいへんに申し訳ないのだが、恨むならば地球温暖化を恨んでください。

七月某日 晴
『やめると人生ラクになる 70歳を越えたらやめたい100のこと』という本の広告を新聞でみつけ、いったい何をやめればいいのかと、つぶさに読む。
 その結果、広告に挙げられていたいくつもの「やめたいこと」は、すでに四十代ですべてやめていたことが判明。

七月某日 晴
 暑い日がずっと続いている。
 いつも午前中の早めの時間か、午後の遅い時間に散歩に行くのだが、この日は、家を出て十歩めで身の危険を感じ、引き返す。
 体温を計ったら、平熱よりも1℃ほど高い。
 氷水を飲み、首に保冷剤をあて、しばらくじっとしてからふたたび計ると、平熱に戻っている。
 変温動物である。

七月某日 晴
 仕事で京都に行く。
 この仕事は毎年夏にあり、コロナ禍の時期をのぞいて約二十年にわたって夏の京都に行っているのだが、京都の方が東京よりも涼しいと感じたのは、初めてである。
 ホテルに着いて熱を計ると、東京で朝計った時よりも0.5℃ほど低くなっている。
 やはりどうにも、変温動物である。
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