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第278回

アメリカで、たいへんに嬉しい気持ちや、肝の太さ細さや。

[ 更新 ] 2024.06.10
四月某日 曇
 仕事でアメリカへ。
 まずは、羽田からワシントンに飛び、そこからロードアイランドのプロビデンスという街まで飛行機を乗り継ぐ、という行程から始まる。
 ワシントンからプロビデンスの飛行機が、ものすごく、揺れる。両側にそれぞれ二列ずつ座席のある国内線で、客室乗務員は一人。その客室乗務員は、最初に、れいの「もしもの時の救命胴衣や酸素マスクなどのつけかた」を指導したのちは、ずっと座っており、シートベルト着用サインも、一度も消えない。
横揺れと縦揺れ、そして何かわからないぐるぐるした揺れなどの恐怖の飛行ののちに、ようやく目的地プロビデンスに到着。
 操縦席から出てきたパイロットに向かって、客室乗務員、
「わお、まるでローラーコースターにずっと乗ってたみたいに揺れてたわね!」
と、嬉しそうに言っている。
 パイロット、笑いながら、
「そうだねー」
 と答え、降りてゆくお客たちに、手を振ったりしている。アメリカの人びと、肝が太い……。

四月某日 晴
 プロビデンスからニューヨークまで、電車で移動。
 朝がた、アメリカでは百四十年ぶりという、マグニチュード4.8の地震があり、スマートフォンにも「緊急地震速報」が届く。
ニュースを見ると、「ものすごく怖かった」と、インタビューに答える人びとが。
アメリカの人びと、肝が太いのか細いのか、不明な感じに……。

四月某日 晴
ニューヨークの本屋さんで、アメリカの作家KLさんと対談。
小説を書くだけではなく、小説講座を持っていて、生徒たちに教えている、という話になり、
「教える時にいちばん大事にしているのは、どういうことですか」
と聞くと、
「ほめて育てることです」
との答えが。
わたしもほめて育ててほしい人間なので、たいへんに嬉しい気持ちとなる。

四月某日 晴
飛行機で、ニューヨークからピッツバーグに移動。
上空で、日食となり、「進行方向の右側の窓から、日食が見えます。でも、絶対に直視しないでください。専用のサングラスがある場合は大丈夫です」というような(たぶん)機内放送がかかる。
専用のサングラスを持っている人が何人かおり、近隣の乗客に貸してくれる。わたしも、うしろの席の人に貸してもらって、三日月状になった太陽を見ることができて、たいへんに嬉しい気持ちとなる。

四月某日 雨
 帰国して、しばらく時差ボケ。
 ようやくなおり、用事のある友人(年齢・六十代後半)に電話。
 つながるなり、友人、
「この前、家の整理をしていたら、ものが落ちてきて額がぱっくり割れちゃって」。
 びっくりして、え、と聞き返すと、友人、以下のような説明を。
 曰く、額が割れると、たくさん血が出る。その場で近所の皮膚科に電話し、様子を話すと、すぐさま来いと言われた。タクシーを呼ぶよりも自転車の方が早いと思ったので、片手で額にタオルを押し当て、片手運転で自転車を駆り、医院に着いた。扉をあけ、血だらけのタオルからさらに滴る血と共に待合室に入ると、まるでモーゼの前で海が割れた時のように、居並ぶ患者たちが道をあけ、その真ん中をしずしずと歩いてすぐさま診察室に入った。傷自体は、さいわいひどく重篤なものではなく、すぐに医師が縫ってくれた。はじめて行く医院だったので、縫合の腕が心配となり、『先生は、縫うのは、上手なんですか?』と聞くと、医師は『子どものころから、刺繍は好きでしたね』と答えた。ちなみに、医師は男性」
 とのこと。
 刺繍は大事ですね。というしめくくりでもって、電話は終わった。もともとの用事については、驚きのあまり、すっかり忘れてしまいました……。
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