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第13回

作り置きクロニクル

[ 更新 ] 2024.06.13
 長らく作り置きは苦手だったが、子どもふたりが巣立ってからいくつか作るようになった。夫婦ふたり分を、毎回一から作るのが面倒になったからである。メインだけ作り、付け合わせや小鉢に盛るものは2~3日分まとめて作っておいたものを使うと、時短になり、彩りや栄養バランスもぐっとよくなる。
 忙しい子育て期に作り置きは活躍するものと思っていたが、むしろものぐさ度が加速し、たくさん食べられない今のほうが私には向いている。

 ポイントは、えいやっと土日にまとめて作るのではなく、平日の朝、仕事前にちゃちゃっとやること。少しでも負担に思ったら続かないと、自分の性格をわかっているので無理はしない。朝は、行動が早いうえに元気もある。仕事を控え無意識のうちに気が急いているので、手が速く動くのだ。

 たとえば今朝は、1, きのこ3種の塩蒸し、 2, 人参とささみのコールスロー風サラダ、3, アスパラバターソテー、4, ズッキーニのナムルの4つを作った。どれも10分足らずだ。
 1は、しいたけ・まいたけ・えのきだけを塩と料理酒で数分蒸し煮にする。2は、人参しりしり器(ググってください)でスライスし、塩をふる。水気を絞って、湯がいたささみを裂いて和える。すし酢とマヨネーズでコールスロー風の味付けが美味。3は文字通り、フライパンで炒めるだけ。大さじ1の水分で、やや固めの蒸し焼きにする。4はズッキーニのスライスをレンジで加熱。ごま油と鶏ガラスープの顆粒で和えてごまを振る。
 最も大活躍し、これがないと不安とさえ思いつつあるのがきのこの塩蒸しである。
 作り置きというのは完成したおかずのことをさすものとばかり思っていたが、これも違うとこの料理から学んだ。
 青菜と和えたり、塩麹漬けしたささみと和えたり、肉のソテーの付け合わせにしたり、白身魚の上にこれを乗せ、醤油をたらり。ホイル蒸しにしても、だしが出ておいしい。料理ではなく、脇役の“素材”として使う感覚に近い。
 シンプルな下ごしらをしておいて、使うときに味付けをするイメージだ。きのこは加熱するだけでだしが出て、安くて食物繊維とミネラルがたっぷり。地味で茶色いシンプルなものだけれど、使い勝手ナンバーワンの万能選手なのである。
 それと、体に良いものを作ったぞ、いつでも冷蔵庫にあるぞという実感が、さりげなく気持ちを上げてくれる。この効能も、なにげに重要だと思っている。

 先日、アスパラを北海道の方からいただいたので、一度にまとめてやや固めのバターソテーにした。少しずつ料理をすると、残り物は当然鮮度が落ちてゆく。以前、「高級な果物の缶詰を貰ったら、できるだけ3日以内に食べる」という人がいた。理由は、「もったいないからとしまい込むと、缶詰はいつしか賞味期限を過ぎてしまうから」。
 わかるわかると膝を打ったのを思い出しながら、アスパラ全部を炒めた。いわば、作り置きならぬ炒め置き。食べる際にレンジで何十秒か温めてもいいし、一口大に切って炒めものの最後に加えてもいい。オーブンで軽く焼いたあとパルメザンチーズをすりおろせば立派なご馳走だ。
 ズッキーニのナムルは、味に飽きたら塩こんぶまたは赤唐辛子を和えて味変をする。

 作り置きをすると、その料理を起点にメニューを考えられるので、大きな目で見るとこれも時短になる。料理でいちばん時間がかかるのはじつは献立を考えることではないだろうか。だから大変便利なのである。

 よーし料理をまとめて作っておくぞと思うと身構えるが、簡単な下ごしらえレベルなら仕事前でもささっとすませられる。
 料理は気持ちの持ち方次第なんだなあとしみじみ思う。「大変」「私にはとてもできない」「飽きるに違いない」「そんな時間はない」と決めつけていることが私にはまだまだありそうだ。
 年齢やライフスタイルや家族構成の変化とともに、食生活は変わる。今のところ私には絶対無理と思っている小豆を煮ることとケーキ作りも、案外数年後に嬉々としてやっているのかもしれない。そんな自分が少し楽しみでもある。
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