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第16回

痩せたいのできちんと食べることにした

[ 更新 ] 2024.07.25
「あんたのダイエットは、生涯の趣味だね」と友だちが言う。趣味ではない、これがラストだ、絶対に痩せてやると言い返す。
 そんな会話をもう20年余りもしている。つまり、それだけ長い間なにかしらダイエットにトライしているが、いまだに成功していないというわけである。それどころか彼女と知り合う前からやっているので、正確には40年余り成果なし。数字を見てあらためて恥ずかしくなったが、続きを書こう。
 
 懲りずに現在トライしているのは、栄養士の先生による個人カウンセリングである。ひたすらノートに食事記録をつけ、対面で細かくアドバイスをもらうというアナログなスタイルで、現在7カ月目。最初の3カ月は1時間を月2回だったが、それではなかなか結果が出ないと気づき、最近は1週間から10日に1回程度見てもらっている。

 第三者に、偽りのない食事の内容を見てもらうと、思ってもみなかった気づきがある。その筆頭は、“野菜が取れていないこと”である。
 有機農家から20年以上、隔週で野菜を取り寄せている。生活クラブ生協もやっている。野菜料理も大好きだ。自分では十分取れていると思っていたが、ノートを食材ごとに色分けするとなんということだろう。全く野菜が足りていないのだ。
「そんなはずはない」と、先生が色分けしてくれたものを見返すが、カフェのランチのキャベツの千切りまでチェックしてくれている。見落としはない。
「野菜は1日300グラム必要と言っても、わかりづらいもの。小鉢5個と覚えてください」
 はいはい5個ね、とメモを取る。先生は、そのようなダイエット挑戦者の反応に慣れた様子でやさしく忠言する。
「5個ってじつは難しいんですよ。お昼はいくつ食べられます?」
「1個かな。うーんがんばって2個」
「すると夜は3個必要です。野菜料理をメイン料理の他に毎晩3種作るのって、意外ときついと思いませんか。一日二日は頑張れても一生はとても続きません。夜は仕事で疲れていたり、張り切って料理できない日も多いですから」
 三日坊主の私が半年も続けていられるのは、ダイエット歴40年にして初めて、楽して短期間で痩せるという考えを捨て、時間がかかってもいいから一生続けられる食事療法を身につけようとシフトチェンジしたからである。
 だから“一生”続けられない無理なことはしない。ファスティングは頭や五感がクリアになって好きなのでたまにやるとしても、「◯◯だけ食べる」「糖質抜き」「脂質抜き」「甘い物や酒禁止」はしない。
 バランスのいい食事を適量とるという基本的なことを真面目に考えてみようと思った。ところが言うは易しだが、これほど難しいことはない。まず、小鉢5個の壁にぶつかるのである。
 大皿にレタスを盛り付けて、小鉢2個分と換算してもよい。だが、外で食べることも多い私は、記録を見て驚いた。小鉢1個にも満たない日がある。

 先生は続ける。
「朝1個食べておくと、5個がぐんと楽になります。たとえば小鉢にミニトマトだけでもいいんですよ。昨日の残りのサラダでも煮物でも、あるいはお漬物でも。お昼は時間がなかったら、スーパーで惣菜のミニパック3個入りを買い置きしておくのも便利です。外出先では、コンビニの惣菜のミニパックでも」

 添加物が、できあいのものはちょっと……、と気取っているこの何十年間に私は何キロ肥えたことか。聞きかじりの健康情報でパンパンに膨れ上がっていた私の脳から、いらぬこだわりや浅い知識がぽろぽろと剥がれ落ちる。
 まだまだ小鉢5個を日課にしきれていないが、元気のある朝のうちに切り干し大根のごまポン酢サラダを大量に作ったり、きゅうりとみょうがに生姜とめんつゆを加え、ジッパー付き袋に仕込むことはできるようになった。これで朝昼合わせて3個クリア。ゲーム感覚で、少なくとも我慢や負担感がない。

 半年かけて2.7キロ減。減り続けるわけではなく、長い停滞期もあれば、外食のあと1.5キロ増えることもある。しょげていると先生が諭す。
「数字に一喜一憂するのはやめましょう。それより一生ものの習慣を身につけると思って、長い目でね。半年前のノートを見てください。体重はたいして減っていなくても食べる内容がガラッと変わっていますよ。大丈夫。この食事ならゆっくり落ちていきます」

 菓子が減り、野菜が増え、朝食をとるようになった。まだ山の1合目。ゆっくりすぎて、まるで頂上が見えないが、もう少し頑張ってみようと思う。
 今わかっているのは、ダイエットに近道なし、でも王道は意外にストレスがないということだけである。この話は追ってまた。結果が出たと喜びを爆発させながら綴る日を夢見ている。
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