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第3回

どうして子どもは疲れても30秒で回復するのか、の巻

[ 更新 ] 2023.01.20
 「かあさん、つかれたー!」
 小さい子は何かって言うとすぐ「つかれた」「のどかわいた」「おなかすいた」と言います。
 子どもと過ごすことの多い母さん父さんは、このことをよく知っている。一回スイッチが入ると、もうしつこいったら! いつまでも、いつまでも、同じことを言う。わかったよ、ちょっと待ってね、と言っても大抵1、2分でがまんの限界が来て、また同じことを繰り返し言い出します。おとなの言う「ちょっと」と、子どもの思う「ちょっと」の差はどうやら、うんとうーんと大きいらしいのです。自分の子どもが生まれて、初めてこのことに気がつきました。
 と同時に、世の中の子連れの人たちが常に荷物ぱんぱんで歩いているのは、あれは、いつ発せられるかわからない「つかれた」「のどかわいた」「おなかすいた」攻撃に備え、さまざまな物資を持ち歩く必要があるからなのだということにも気がついた。ついでに言うと、元気だった子どもが急に無言になったときこそ要注意。もしかすると、うんちやおしっこかもしれないからです。つい5分ほど前トイレに誘ったときは頑なに「行かない」「出ない」って言ってた子が急にちっちゃい声で「おしっこ」って言ったりするのです。えっ! その度大慌てでバスや電車から降りたり、どこかの建物に飛びこんだりするはめになる。「何でさっき行っとかなかったのー!?」って、ほんとに何度、ワナワナしたことか。叱ってもしょうがないんだけど、わかっているんだけれど、あれは本当に厄介なんですよね。街や公園などで幼稚園くらいまでの子の手を引いてトイレに突進していくパパママたちの姿を見かけるたびに、わー頑張れー間に合ってー、と、つい後ろ姿にエールを送ってしまいます。
 おもらしや嘔吐、何かにはまってびしょ濡れ、泥だらけになることもあるため、ビニール袋と着替え、タオルも常に欠かせません。時々本当に思いもよらないことが起きるのです。何ならこちらの着替えも持っていないといけなかった! という大惨事に、私は通算5、6回遭遇しましたね……。
 というわけで、ちびっこを連れた大人は、リュックを背負っていることが多いような気がします。ちびさんたちは急に駆け出したりすることもあるため、両手は塞がっていないのがベスト。リュックは必需品だ。
 うちの妹も、かつてはおしゃれな格好をしている人でしたが、子どもが生まれてからはいつもどこへ行くにも林間学校にでも行くのかと思うような大きなリュックを背負っていました。職業=看護師ということもあるのか、人の気持ちを汲むのがうまく、困ったときにはコレ、というものを山ほど持ち歩いていたのです。絆創膏も常に3、4種類、おもちゃや小さな絵本、個包装の袋菓子……。うちの母はそれを見て「親が丁寧すぎるから、子どもがちょっとすりむいたくらいでビービー騒ぐんや」と言っていたけど、そうなのかな。少しは当たっているかもしれないけれど、子どもの元々の気質なんて、親の影響などではちょっとやそっとで変わらないと私は思う。いちいち大げさに騒ぐ子、構われるのがイヤで逃げ回る子、心配性な子も、メンタルが強い子も、いろいろいるよね。ただ、「そんなの大したことない、洗っときゃ治る」ってばしっと言ってくれるうちの母のような大人や、「あ、コレ元気の出るシール、あげるね」って気をそらしてくれるおばちゃん、「おっ、泣かないの! 強いねえ!」って盛り上げてくれるおじちゃんなど、いろんな人が周りにいてくれることが子どもにとっては大事。これは絶対だ。
 話がそれました。
 すぐ疲れて、のど渇いて、お腹もすく子どもたちですが、こと山に登ったりするときには、めちゃくちゃ元気だということに驚いてしまいます。山に限らず平地でも、鬼ごっこをしていてもそう。「つかれたー!」って言いながら、30秒でまた走り出す。げげ! 疲れたんじゃなかったの? こっちは汗拭いて、呼吸整えて、それでもヒーハー言っているのにどういうわけだ。体重が軽いせいか、足どり軽やか、せっかく登っていったのに「かあさんまだー?」なんて駆け戻ってきたりと意味がわかりません。こっちは、一歩たりとも損したくないのにさ、息子は「無駄足踏んでいこうよ〜」とうひゃうひゃ笑いながら軽々ステップ踏んで言うのです。に、にくらしい。


どうやら「かっこいいフォーム」というものがあるらしい。

 それに、あれは娘がまだ2歳前だったと思いますが、旅行で行った奥日光の湿原を少し歩いたことがありました。おんぶ紐持参で出発しましたが下に下りたがって、木道をトコトコ、トコトコ。木の道というのが珍しくて楽しかったのか、思った以上に先へ先へ行くので、心から驚いたものでした。

 ブランクありまくりのなか、長年お世話になっている筋トレの先生Nさんは「筋肉そのものは疲労しても30秒である程度復活します。いやいや、復活しないよと思っちゃうのは、これはあなたの気持ちの問題なのです!」ってよく言います。「もう限界!」「無理、やめる!」って筋トレしながらわめく私にいつも「あと5回! 止まるな! 筋肉はまだ死んでない!」って、ハッパをかけてくる先生なのです。うえーん、しくしく。ほんとにキツいんですって。
 あっ! でもですよ。ってことは、子どもがちょっと休憩しただけで回復するのは、先生の言っているのはやっぱり、真実なのかしら。

 息子、甥っ子2名の小学生男子3人組は、集まると相変わらずわあわあぎゃあぎゃあとうるさい。でも、うちの妹はもう大荷物ではありません。代わりに甥っ子たちは自分のリュックに自らのヒマつぶしグッズを入れ、水筒も入れている。たとえ「おなかすいた」「おなかすいた」とツバメの子のように騒いでも、妹は「ちょっと時間あるとすぐ『おなかすいた』って言うねん。あれ口ぐせやわ」と、ちっとも動じない。そればかりか「もうおやつなし、くせになる」とかって、厳しい。いつの間にか、妹はうちのオカンみたいになってきているのでありました。「なんか、しーたん、変わったな」と呟くと、横にいたうちの娘はすかさず「いや、お母さんこそだいぶ前からババに似てるで」とひと言。
 ええっ! 本当? うそやん。「ほんまやし。きつく厳しく、かなりてきとーになってるし」ぴしゃりと言い返されてしまいました。
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