第2回
どうして山に登りたくなるのか、の巻
[ 更新 ] 2022.12.20
私は出演者3名のうちのひとりで、大体月に一度のペースで山に出かけています。思い返せばこの4月、第一回の放送は滋賀県の武奈ヶ岳でした。真っ白な雪山登山、春の山頂で凍えた。あれから季節はぐるりひと巡りしようとしています。
自然のなかで遊ぶのが好きな私にとって、仕事でも登山ができるのは幸せなこと。同業者、家族や友だちにも羨ましがられ、山ではたびたび、「そこやま見てます!」って、登山者の方が声をかけてくださいます。嬉しい。そこやま、って縮めて言ってくれるのがいいじゃないの。ロケ隊のテンションもぐっと上がる瞬間だ。「ここ地元なんです。いつ放送ですか?」とか、「わあ、この番組の撮影に遭遇するの、これで二回目なんです!」とおっしゃる方も。偶然×2って、それはこちらもびっくり!
納古山ロケのときにガイドさんから聞いたのは、最近一般の方が「そこやま風」に、頂上直前にスローモーションになるカットを入れた登山動画を投稿サイトに上げているという情報でした。真似しようと思うくらい印象に残っているってことですよね。ほくほくにんまりしてしまいます。
納古山の山頂は眺めが素晴らしく、私がいる間、遠くの山は大日ヶ岳~白山、逆の方角には恵那山がうっすらと見えました。快晴なら中央アルプスも望めるんだそう。快適に休憩ができる座り心地の良いベンチとテーブルが点在していて、程よくゆったり、風もなく太陽も出て快適な登山日和でした。
頂上では何人かの方に出会いました。まずトレイルランナーの男性、この方はちっちゃいリュックというか小物が少々収納できそうなベストのようなものを着て、とにかく身軽な出で立ち。山頂へ着いたかと思うと水分補給して呼吸を整え、あっという間に走り去っていきました。頂上の滞在時間5分ほどか。もしかすると私たちが撮影しているので長居を遠慮されたのかもしれませんが、とにかく颯爽としてかっこよかった。
ほかには単独行の男性がもうお一人。ベンチに腰掛け、小さなバーナーで食事を作り、その後コーヒーを丁寧に淹れておられました。いいなあ、コーヒー。カップ片手に冬の麗らかな日ざしをゆっくり楽しんでいるようで、すてきです。
女性のグループもいらっしゃいました。3人プラス大型犬3頭。みなさん山行きに慣れていそうな雰囲気で、手際よくコンロをセットし、ホットサンドを作成。ほー、その手があるのか、いいランチですね、美味しそう! わんちゃんたちもみなごきげんに笑っていて、写真に撮りたいくらい楽しそうな雰囲気です。携帯用コンロ、良いですね。温かいものが恋しい季節、いよいよ私も欲しくなってきました。
遠見山から見る「岐阜のグランドキャニオン」!
番組で登る山は、スタッフのみなさん、山岳ガイドさんが毎回選定してくださっています。出演者として参加する前に打ち合わせがあり、どんな山が好きですか、どんなところに登山の魅力を感じますか、と聞かれました。
私の好きな山は、植物がいろいろ生えている緑豊かな山。小学生の頃からの苔好きなので苔があると嬉しいし、虫や鳥などの生きものも観察したい。伝説や昔話など逸話のある山にも興味があるし、春は花を見たり、夏は涼を求めてなど、季節ごとの楽しみも満喫したい。標高の高い山をストイックに目指すというより、いろんな発見のある“おもしろ山”へ行きたいのです、と欲張りなことを言いました。
そんな私に、ガイドのSさんはそんなわがままな、とはおっしゃらず、「わかりました! いっぱい面白いとこがあるので任せてください」って、頼もしいお返事。スタッフのみなさんも「眺望だけでなく、いろんな角度から山の素晴らしさを伝えられるような番組にしましょう」と言ってくださり、食虫植物モウセンゴケ(熱帯地域にいるかと思いきや、滋賀にもいた)や、南方熊楠が研究していた粘菌を見たり、沢歩きや、奇岩巡りなど毎回楽しい企画を立ててくださっています。私が京都在住ということもあり、西日本の山担当のようになっているのも気に入っている。本当に、いいとこがいっぱいあるのです。
番組上は私が単独で登っている設定になっていますが、山を魅力的に映すためカメラも複数台、ガイドさんも含め、撮影隊は10人超えの大所帯。出演者ごとに好きな山も登山のスタイルもそれぞれ。あとのお二方、早霧せいなさん、金子貴俊さんと、三人三様の映像になっているのは、見ていただくとわかると思います。いつか3人で登る機会があるといいなあ! って思っているんですけど、おしゃべりが弾んで収集つかなくなっちゃうかな。
冬は苔が生き生きとする
さて、どうして私は山に登りたくなるのか。
山に行くと、感覚がうんと研ぎ澄まされるような気がするのです。普段自宅にいるとき自分から半径2、3メートルのところを見て動いているようなものが、一気に10メートル、いやそれ以上まで範囲が広がる。アンテナが限界ぎりぎりまで伸びて、美しいものも危険なものもキャッチしようと細胞が活性化するんですね。
歩くことで、その山の“今日一日”というものを目の当たりにできるのも面白い。山に行く日は、山登りに集中するため、それ以外のことは1ミリもしないというのがいいのです。新鮮な空気、澄んだ空、積み重なった落ち葉、冬日の差し込む明るい森、倒木を覆うように密集する苔、高さ15センチほどしかないのに立派に紅葉している楓の若木や、つやつやのドングリ、不思議なキノコ、鳥のさえずりなどが、次々に目に耳に飛びこんできます。どの季節、どの山に登っても、それはかけがえのない一日になる。春が来て夏になり、秋が訪れ冬へと至る待ったなしの変化を、全身で受け止める。何一つ持って帰ることはないけれど、はっとした瞬間が永遠に心に残るのです。これが山登りの面白いところでしょう。
うちの息子は小学校に入るか入らないかのころ、京都五山の送り火で有名な大文字山でリスが木の枝を走るのを目撃したことを、いまだに記憶しています。あのリスはボクが一番に見つけたんだよね! って誇らしげに言う。そうだった、君が一番に見つけたんだよね。
大文字山とリスは、息子の山登り体験の一番星。きっとこれからも心の中で輝き続けることでしょう。