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第1回

どうしてリュックのなかみが気になるのか、の巻

[ 更新 ] 2022.11.21
 はじめまして、本上まなみです。このたびウェブ平凡で連載の機会をいただきました。緊張しつつも晴れがましく、しゅっと背筋の伸びる思いです。このエッセイでは、私が家の外や自然のなかでいつもどんな風に遊び、愉しみを見出しているかということをテーマに文章を綴っていこうと思っています。
 まずは自己紹介を。ここ10年ほど京都市内に暮らしています。ご承知の通り京都市は夏暑く、冬は寒いという気候。それというのも盆地の地形で、つまりぐるりが山。生活していて山を見ない日はありません。昔、豊臣秀吉が御土居おどいという、土盛りの塀で京都の街を囲いましたが、その外周を山、つまり天然の御土居のようなものがさらにぐるっと囲んでいるわけですね。この京都の山並みは「京都一周トレイル」として、トレッキングの道が整備されています。
 ちなみにちょっと話がそれますが、御土居に捨てられていたゴミのなかに食べ残しのゴボウがあり、それが知らぬ間にとても良く育ったことから京都の伝統野菜、極太の堀川ゴボウが生まれたと農家さんから聞いたことがあります。栽培方法は育てたゴボウを一度引っこ抜いて、悠々と横たえる形に植え直すんだとか。美味しいゴボウは秀吉と町衆の、思いも寄らぬコラボ作だったのか〜と思うと笑えます。しかも御土居=ゴミ捨て場って! 現在、御土居の一部は保護されていますが、公園になっていたり小山として子どもたちが走り回っていたりする場所もあり、昔からみんな自由に、いろいろなことをやっていたんだろうなあ。こんなふうに過去と今、歴史上の人物のあれこれと町衆の暮らしや本音が混在しているエピソードがたっぷり残っているのが、この土地のおもしろいところです。
 山の話に戻りましょう。私の家の辺りからよく見えるのは比叡山から「五山の送り火」でも有名な大文字山(如意ヶ嶽)といった東側の山々。この方向には高い建物がないので麓の方までよく見え、なだらかで美しい山並みを存分に楽しむことができます。中秋の名月も、この山の稜線から出る。東京から越してきて一番気に入ったのはこの景色と、市内を南北に流れる鴨川です(下鴨の三角州から北部は「賀茂川」と表記する)。家から歩いて数分、柵や街灯がほとんどないこの川も大好きな場所。ここは明け方から日暮れまで、日光浴、昼寝、楽器や地唄、朗読、劇などの練習、虫や魚とり、バードウォッチング、散歩、犬の散歩、ピクニックやマラソン、トレーニング、通勤・通学などなど、行き交う人や生きものの絶えることがありません。
 それでいていつもゴミひとつなく、さっぱりと整えられている。悠々と寝転がれるベンチがたくさんある。どっちを向いても、「あ、やだな」と思うものが目に入らないんですよね。きれいな場所をきれいに保とうとする心の働きもうまく作用しているのか、まあるく秩序が守られているのです。のんびり気楽に気ままに過ごせるところ。安心できるところ。無料で誰でもいつでもいつまででもいていいところ。身近にこういう場所があるというだけで、心が楽になるのを感じています。


賀茂川、出雲路橋から大文字山を望む

 おおそうだ、この連載のタイトルについても触れなければ。
 「リュックのなかみは何ですか?」というのは、いつも私がリュックを背負っている人を見ると、聞きたくてたまらなくなる質問です。リュックってただの物体、ただのバッグっていうのじゃなく、相棒って感じがするんですよね。一心同体、身体に密着しているところがいい。空っぽのリュックは魂が抜けたような姿をしていますが、ものが中に詰まれば詰まるほど心強い存在になり、重いんだけど、その重み=安心、幸せが約束されるといいますか。夢や希望もふくらみます。それを背負って行く先は、おおよそ屋外、家の外。そう考えるとリュックはいざという時の心のよりどころでもあり、自分のテリトリーを離れていく、これひとつでやっていくぞって、ちょっと気合いが入るスイッチみたいなものでもあると思うのです。
 そしてリュックのなかみって、本当に人によってさまざま。同じ山へ行くのにしても、聞いてみるとみんな実に思い思いの、違うものを持っているんですよね。荷物の詰め方にだって、ちょっとしたキーホルダーなんかのアクセサリーにだって、性格や人柄がにじみ出ると思いませんか。小学生の遠足リュック、バスツアーで降りてこられるおじいちゃんおばあちゃんのリュック、海外から来られたバックパッカーの方々、頭の上をずいぶん高く追い越しているような縦に長いリュックのなかみなんて、何がどんな風に入っているのかなあ? ものすごく興味があります。
 もう20年以上前ですが、ドラマの現場でご一緒していた俳優の室井滋さんのリュックには愛猫の「チビ」が入っていました。しかももうチビじゃない、大きなチビ! ぬいぐるみではなく本物の猫です。「淋しがるからね~、一緒にいるのよ~」って。チビも室井さんも幸せそうで、これは本物の相棒を背負ってきたな、と唸ったものです。いまだに、これまで見てきたなかでは断トツの別格の、ステキなリュックのなかみでしたよ。
 もうひとつ。前に「プレバト」という番組で、私はこんな俳句を詠みました。

ちびリュックなかみはおむつ山笑う

 娘がおちびさんだったころの実話です。3歳児がいばってしょっている赤いリュックの「なかみ」「正体」を道行く人は気づきません。母さんだけが知っている秘密でした。
 さあ次回からは、私も自分のリュックを背に、西へ東へ。存分に楽しんでいこうと思います。おつき合い、よろしくお願いしますね!
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