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第6回

「女性活躍」とは何なのか?――「女性の人権」とは似て非なるもの

[ 更新 ] 2023.03.20
 この連載が公開される頃には3月8日の「国際女性デー」は過ぎているが、ここ数年、日本でも国際女性デーに行われるイベントが増えてきている。
 ためしにGoogleで「国際女性デー 2023」で検索をかけると、上位に「国際女性デー|HAPPY WOMAN」というウェブサイトが登場する。クリックすると「3月8日は国際女性デー|女性の生き方を考える日 女性のエンパワーメントとジェンダー平等社会実現を」「日本最大級の国際女性デーイベント【7年目】全国14都道府県33会場で開催」、さらに下に行くと「パートナーシップで、人を社会をハッピーに。」というハイテンションな見出しが掲げられている。この「パートナーシップ」とは個人の話ではなく企業とのパートナシップであることもお伝えしたい。「インタビュー」ページを見ると『HAPPY WOMAN FESTA 2023』のテーマソング“WE ARE HAPPY WOMEN”を歌っている倉木麻衣や黒柳徹子、佐伯チヅ(故人)などの有名人が登場する(注1)
 さらにこのウェブサイトは、「株式会社ハッピーカンパニー」という企業が管理している。事業内容には「イベント/セミナー/研修/ブランディング/マーケティング/プロデュース/コンサルティング/企画制作/クリエイティブ」とある。なんだか胡散臭い……と眉間に皺を寄せつつ読み進めると、その会社代表取締役は男性で「広告制作会社、株式会社マイナビを経て起業」というプロフィールを確認し(注2)、勘が当たった気分になる。個々人の女性が潤うのではなく、結局は広告会社や求人会社、あるいは派遣会社がマージンや宣伝費用によって儲ける図式は私にとって既視感あるあるである。
 「非正規労働者で次の仕事先はどうなるのか不安」、「鬱でしんどい」、「上司からセクハラやパワハラを受けて辛い」、「給料が低くて生活が苦しい」、「昇進したら同僚の男性社員からいじめを受ける」といった悩みを抱える人(女性)にとっては、このインタビューの人選やキャッチフレーズがまず某首相の発言ではないが「異次元」感満載ではなかろうか。
 そしてこの連載や私の著書をもれなく読んでくださるディープな栗田隆子マニアの皆さま(この世に3人くらいはいるかもしれない)なら、ここまで読まれて、「栗田隆子はイラッとしているのでは?」と心配されるかもしれない。その心配はおおむね当たっているのだが、まずはこのサイトの見出しにある「7年目」という言葉に注目したい。
 なぜ7年目なのか? 2023年から7を引けば2016年。この年に何が起きたかと言えば「女性推進活躍法」ができた年なのである。そもそも女性にまつわる法律でいえば、すでに1985年には男女雇用機会均等法が成立し、2001年には男女共同参画推進法が成立している。それなのになぜわざわざ「女性推進活躍法」が生まれたのだろうか。そしてこの法律の意図やその背景はいかなるものだったのか。
 そこでまず厚生労働省からの通達「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の施行について」(注3)を見てみたい。そこには法制定及び改正の経緯として以下のように記されている。長いが、引用してみる。

 「我が国における15歳から64歳までの女性の就業率は、着実に上昇してきているが、就業を希望しているものの育児・介護等を理由に働いていない女性(女性の非労働力人口のうち就業希望者)は約170万人に上る。さらに、子育て期の女性に焦点を当てると、第一子出産を機に約5割の女性が離職するなど出産・育児を理由に離職する女性は依然として多い。
 また、雇用形態を見ると、女性は出産・育児等による離職後の再就職にあたって非正規雇用労働者となる場合が多いことなどから、女性雇用者における非正規雇用労働者の割合は約5割となっている。
 さらに、管理的職業従事者(就業者のうち、会社役員、企業の課長相当職以上、管理的公務員等)における女性の割合は約15%と低い水準にとどまっており、近年ゆるやかな上昇傾向にあるものの、欧米諸国のほか、アジア諸国と比べても低い状況にある。
 このように、働く場面において女性の力が十分に発揮できているとはいえない状況を踏まえると、働くことを希望する女性が、その希望に応じた働き方を実現できるよう社会全体として取り組んでいくことが重要である。
 一方、我が国は急速な人口減少局面を迎えており、将来の労働力不足が懸念されている。さらに、国民のニーズの多様化やグローバル化等に対応するためには、企業等における人材の多様性(ダイバーシティ)を確保することが不可欠であり、新たな価値を創造し、リスク管理等への適応能力を高めるためにも、女性の活躍の推進が重要と考えられる。
 このため、女性の活躍推進の取組を一過性のものに終わらせることなく着実に前進させるべく、民間事業者及び国・地方公共団体といった各主体が女性の活躍推進に向けて果たすべき役割を定める新たな法的枠組みを構築することとし、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律を制定することとしたものである」(太字は引用者によるもの)。

 つまるところ、この女性活躍法の「女性活躍」とは、あくまで賃金の発生する仕事に限った話なのである。就業を希望しているが働いていない女性を労働に就かせるため、管理職の女性の就業の割合を上げるため、そして何より企業における人材の多様性を確保するための法律なのだ。私がこの連載でしつこく考えている「働かない」「働けない」状態の独身女性は、この法律の中における多様性には含まれないのである。

 ちなみに2016年に私の身に起きたこととして、一つ紹介したいエピソードがある。その年の12月、東京都港区赤坂にあるANAインターコンチネンタルホテルにて駐日欧州連合代表部が主催した「EUハイレベル会合&ネットワーキングレセプション 女性の経済的エンパワーメント」という集まりに、当時私が代表という立場にいた団体が招待されたのだ。招待状の文面を一部引用したい。
「……さて、男女平等の促進における欧州連合(EU)の取組みにより、多くの欧州市民の生活が改善されています。しかしながら、労働市場への参加、経済的自立、給与および年金、管理職種における、平等の達成からはいまだ程遠いといえます。」
 ハイレベルなスピーカーが集まる会合の招待状を受け取った人間が、鬱状態の非正規労働者とは、送った方は思いもしていなかっただろう。(絶対にキャリア女性の団体だと勘違いされている)と思いながら参加したのだが、とにかく「人権」の話は全く出てこないことが印象的だった。「労働市場への参加、経済的自立、給与および年金、管理職種における、平等の達成からはいまだ程遠い」状況には、女性の「人権」の話、もっといえばセクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメント等々の問題が絡んでいるはずなのに、そんな言葉はなく、成功した身なりの女性たちが自らの奮闘ぶりを語る時間に多くが費やされていたのだった。

 そもそもダイバーシティという概念は米国から生まれたと言われているが、日本でこの言葉が社会的に使われだしたのはいつ頃かを調べてみると、日経連(今の経団連)が「平成12年8月、企業・団体の若手人事・労務担当者等30名で構成するダイバーシティ・ワーク・ルール研究会が発足して以来、ダイバーシティについての研究を行」ったとある(注4)
 日本社会においてはダイバーシティと言ったところで、絶対にそこには含まれない人が一定数いるのはなぜなのかと以前から思っていたが、これを読んで納得した。あくまで企業に貢献できる人材としての多様性であって、家庭や学校、あるいは地域や国家における多様性という話はしていないのである。
 たとえばこの連載でたびたび(悪い事例として)登場する渋谷区はダイバーシティを区政に掲げる自治体で、パートナーシップ証明を交付するといったことはいち早く実践したが(注5)、「再開発」を理由にホームレス状態の人に対しては予告なく公園から排除する。これはダイバーシティ、すなわち多様性を認めていないじゃないかと思っていたが、日本の文脈におけるダイバーシティとはあくまで企業における人材のダイバーシティでしかないのだから、渋谷区の姿勢はそれを追従しているにすぎない。だからこそ「再開発」もとい「ジェントリフィケーション」(注6)は、ダイバーシティ政策となんら矛盾はしないということになるのだろう。セクシュアル・マイノリティでホームレス状態の人もこの社会には存在するのだが、そういう発想が皆無の理由もこれでわかる。

 厚生労働省の通達に話を戻すと、「育児や介護で働いていない」とサラッと書いているところにも注目したい。育児や介護をしてきた人ならわかるだろうが、育児や介護は睡眠時間を削られ、一瞬も相手から目が離せない場合もあり、ただ休んでいるわけではない。出産休暇、育児休暇、介護休暇という言葉を作ったのが誰だか知らないが、出産や育児、そして介護を「休暇」として考えるのは、賃労働のみを仕事と捉え、出産や育児、そして介護をほとんど経験していない人間の発想なのではないかと勘繰ってしまう。こんな言葉一つをとっても、あくまで働いている人間における「多様性(ダイバーシティ)」でしかなく、しかもダイバーシティを「確保」する主体はあくまで企業や組織なのだな、と改めて感じる。企業が主語となってダイバーシティを「確保」する。そんな中でのダイバーシティとは一体なんなのだろう?
 そう思って女性活躍推進法の第一条(目的)を改めて読む。この法律の目的は第一条のラストに集約される。
 「女性の職業生活における活躍を迅速かつ重点的に推進し、もって男女の人権が尊重され、かつ、急速な少子高齢化の進展、国民の需要の多様化その他の社会経済情勢の変化に対応できる豊かで活力ある社会を実現することを目的とする。」
 つまり、「男女の人権が尊重され」ることは第一の優先事項ではない。それこそ前述した法律の意図と背景が「急速な少子高齢化の進展と国民の多様な需要と社会の経済情勢の変化に対応する」という言葉で表されているわけだ(注7)。だが女性活躍推進法が施行されて7年経ってもいまだに非正規労働者の割合や管理職の割合、女性が育児で仕事を辞めざるを得ない現状はたいして変わらない。新型コロナによって女性がいかに不安定な労働をしているかが露呈したことを私は決して忘れたくない。

 ちなみに私自身はこの「女性活躍推進法」ができて何か変わったかといえば全くといっていいほど変わってはいない。「働けない」「働かない」私は対象外だからと言えばそれまでだが、私の周囲の働いている女性からも「女性活躍推進法」ができて良い変化があったという声を聞いたことはない。私はかつて複数の大学でアルバイトをしていたが、女性研究者の比率を増やそうという話はあっても、事務方の正規職員の多くが男性で、それ以外の臨時職員は圧倒的に女性が多い状況については何も触れられない。そして臨時職員は細切れの有期雇用契約であることも、女性活躍推進法成立以前と以降では何一つ変わらない。女性活躍推進法よりもむしろ、厚生年金の適用基準が変わる方が私にとっては影響が大きい。厚生年金に加入できる労働時間の要件が「週30時間以上」から「週20時間以上」に拡大されたことから、週20時間よりも少ない時間で働かせようとする職場も出てきているからだ。大学の学生や教官の間ではダイバーシティが謳われても、事務方の臨時職員にとってダイバーシティは頭上を通り過ぎるものでしかない。それと比較するのも何だが、この連載の第5回で「インボイス制度」について取り上げたところ、某大手出版社からの「適格請求書(インボイス)発行事業者登録番号ご提供のお願い」という書面が早速うちに届いた。税金の取り立てに関しては政府も企業も実に仕事が迅速である。

 さて、今回の原稿作成にあたり、担当の編集者さんが何かの参考になればと、2つの会社を経営する弁理士(知的財産に関する専門家)の女性のインタビュー記事を教えてくれた。その女性は、中小企業では女性を正社員で雇っても結局子育てなどで辞めてしまうから、女性を一生懸命育てても無駄になってしまう。それでは自分のところのような中小企業では立ち行かない。女性活躍推進は大企業が中心の発想だ。自分のところではとても無理なので女性を雇わない、といった内容だった。
 その企業経営者でもある弁理士は、自身のツイッターで「批判覚悟ですが、私は、寿退社や産休や育休をされると困るので、若い女性は正社員として雇用してません」「本音は雇ってあげたいし心苦しいのだけど、うちのような弱小企業では雇う余力がありません」「こういうところに政府の助成金を出してほしいと思う」と投稿したことで反響を呼んだ。記事では、取材に対して「女性の社会進出を応援したいと思い、20代30代の女性を雇ったことがありました。しかし、それまで一生懸命、その子に仕事を教えて育ててきたのに、結婚を機に退職されてしまったり、産休と育休を取得した後に退職された経験があります」「産休や育休などの制度は、大企業が前提となっている制度で、中小企業には即してないと思います。(中略)中小企業でまともに女性に産休や育休を取らせたら、そのせいで会社の経営が傾く可能性もあると思います」と語っていた(注8)
 もちろん、大企業に比べて中小企業に余裕がないことは事実だろう。しかし「女性は正社員として雇わない」という解決策では、「なぜ女性は妊娠・出産で辞めざるを得ないのか」という構造の話まで踏み込んだ議論にならない。一介の個人にそこまで期待することは難しいのかもしれないが、経営者側からこうした発言がなされることで、たとえ職場に問題があって女性が退職せざるを得ない場合も、ますます「個人の問題」としてしか捉えられなくなってしまうのでは……と思いつつ、その女性起業家のツイッターアカウントを確認した。
 ……見なければよかった。まずそう思った。
 そのアカウントには生活保護受給者や公営住宅の住民、さらには特定の地域に対する差別や偏見に満ちた言説が並んでいたからだ。
 女性が企業的な価値観において活躍推進がされても、それで人権の問題は解決されない、そのわかりやすい事例のような話だった。私個人の立場から、この人物には直接ツイッターで抗議をしたので、ここではそれは繰り返さない。ただ、経済が活性化し、お金が発生する働き方を女性が今よりも頑張ったところで別にこの世界が女性に対して優しくなるわけでもなければ、住みやすくなるわけでもない。
 考えてみれば第二次世界大戦中、男性が兵隊で駆り出された時は、女性は社会のいろいろな仕事や役割を担った。でもそれはあくまでその当時の社会(日帝!)を維持するためにすぎず、女性は「活躍」していたかもしれないが、基本的人権が尊重されていたわけではない。
 この戦時中の女性たちの「活躍」のあり方は、防衛費予算が5年間で43兆円と計上され、戦争のせいでさまざまな物価が上がっていく今の時代において妙に生々しい。とにかくまずは生きていく権利がある、殺されない権利がある、企業のために、国家のために活躍を推進されるような社会なんて私は望んでいない。働いていなくても、だらだらとでも生きていく権利を、殺されない権利をまずは望み、主張したい。



(注1)HAPPY WOMAN ONLINE「インタビュー」
https://happywoman.online/category/academy/interview/
(注2) 株式会社 ハッピーカンパニー
https://happywoman.online/secretariat/company/
(注3)厚生労働省「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律の施行について」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000962286.pdf
(注4)文部科学省ホームページ 資料2「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」報告書の概要 原点回帰  ――ダイバーシティ・マネージメントの方向性――
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/008/toushin/030301/02.htm
(注5)渋谷区公式ホームページ「渋谷区パートナーシップ証明」
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/shisaku/lgbt/partnership.html
(注6)ジェントリフィケーション (gentrification) とは社会学者のルース・グラスが作った言葉で、貧しい人たちが住んでいた場所が、社会階層の高い人たちが移り住む、あるいは使用する場所へと変えていくことを指す。日本語では「都市の富裕化現象」などと呼ばれたりするが、そのプロセスで貧しい人(ホームレスの人々など)の排除を伴うことが非常に多く、社会問題となっている。
(注7)女性活躍推進法は第一条に「男女共同参画社会基本法(平成十一年法律第七十八号)の基本理念にのっとり」と記載されている。男女共同参画社会基本法の基本理念を確認すると「少子高齢化の進展、国内経済活動の成熟化等我が国の社会経済情勢の急速な変化に対応していく上で、男女が、互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮することができる男女共同参画社会の実現は、緊要な課題となっている。」(太字は引用者による)と書かれており、女性活躍推進法と実はあまり変わらぬ発想に驚く。
(注8)「『若い女性は正社員として雇用してません』 女性社長が炎上覚悟の投稿 中小企業の切実事情」
ENCOUNT 2023年2月9日記事
https://encount.press/archives/416381/
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