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第8回

80年代のまずいドーパミンの出し方
映画配給収入ランキング 1986年 1位『子猫物語』

[ 更新 ] 2026.10.15
 小学生の頃、夏休み前になると文部省(当時)推薦映画のチラシが配られた。推薦映画は映画館だけでなく、市民ホールのようなところでも小学生向けに上映されたのではなかったか。『子猫物語』も文部省の推薦を受けていたようで、チラシを見かけた記憶がある。

 私は子どもの頃から長らく物語らしい物語を苦手としていて、それは登場人物に何かつらいこと、苦しいことが起こるのを見るのが怖いからだった。『子猫物語』は、その苦手エキスの予感が満タンの作品だったなと思う。子猫に何が起こるかわからないなんていうのは、登場人物が人間である以上にどうしようもなく、子どもの私にとって恐ろしさそのものだった。

 『子猫物語』は大ヒット、主演の猫のチャトランもそれは大変な人気となった。できるだけ映画から遠ざかっていた私も、チャトランとパグ犬が冒険をするらしいということまでは噂に聞き、けれど詳細までは知らずにリアルタイムを通り過ぎた。

 今回、なんの前情報もなく観て、あっ、こんな感じなのかとちょっと驚いた。意外な演出だった。

 登場する動物たちは、ひとりひとり声優がついて声を当てるのかとなんとなく想像していたのだけど、そうじゃない。ナレーションはひとり、全編を通してアナウンサーの露木茂さんが、いかにもアナウンサー然として担当する(途中、小泉今日子さんによる詩の朗読パートが入るが、朗読だけだ)。たとえばチャトランの登場シーンだったら、「牛小屋の中でうまれた7匹の子猫たちの中に、ちょっと風変わりな子猫がいた。チャトラン。これがその子猫の名前である。雄である。」といったような感じで、ぼちぼち、淡々と続く。

 途中ナレーションで、「ほんとに、どこへかくれたんだろう?」とか「まてー!」といったような、セリフを当てるシーンもあるにはあるのだけど多くはない。

 基本的にはずっと、動物のイメージ映像を観ているような感じだ。運転免許の更新センターだったか、区役所だったか、なにしろ公的な施設に置かれたテレビ画面に、パンダが笹を食べたり遊んだりする様子がずっと映っていて、存分に心癒されたことがある。そういうやつだ。

 『子猫物語』は、そんな一般的な動物のイメージ映像がどんどん過激になって、いくところまでいく感じの映画なのだった。さっきまでじゃれていた動物が、川の激流を木箱に入って流されたり、クマと戦ったり、崖から海に落ちたり、蛇に追われて木の上まで逃げた挙句、穴に落ちたりする。

 純粋に、むちゃくちゃまずい。だって、実際は動物は冒険していないのだ。冒険をさせられているわけだろう。こんなことはしちゃだめだというシーンでいっぱいだ。実際、公開と同時に動物愛護の観点から批判を受けたようだ。

 近頃、ドーパミンという言葉に注目が集まっている。短時間に強い刺激がぎゅんぎゅんに詰まったコンテンツがあふれるようになり、刺激によってドーパミンを出し続けることに慣れる危なさは、たった今の問題だ。もちろんそれはそれで大きな懸念であって、けれどどうだろう、80年代は動物に大冒険をさせて映画にして、それをみんなで手に汗にぎって観ていたのだ。危なっかしいなんてものではない。

 本編の95分はおおむねゆっくりと描かれる。全編に谷川俊太郎さんの詩「子ども」が印象的に挿入され、夏を夏として、夜を夜として、描かれた風景はずっと美しく、また厳しい。動物たちが大変なことになる以外、音やカット割りなどのギミックでの派手な演出はない。激しくドーパミンを出させるのとは遠い世界のような子どもの顔で、足を踏み外している感じだ。

 チャトランの顔が、画面いっぱいに映るシーンが何回かある。ものすごい真顔をしている。

1986年日本配給収入トップ10
1 子猫物語
2 バック・トゥ・ザ・フューチャー
3 ロッキー4 炎の友情
4 グーニーズ
5 コブラ
6 野蛮人のように/ビー・バップ・ハイスクール
7 コーラスライン
8 植村直己物語
9 キネマの天地
9 ドラえもん のび太と鉄人兵団/プロゴルファー猿 スーパーGOLFワールドへの挑戦!!

 なんと『子猫物語』は、興行収入で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を楽勝でしのいでいた。4位には『グーニーズ』も入っており、『子猫物語』の強さにおののく。
 『ドラえもん のび太と鉄人兵団』は映画館で観た。とても印象深いのに、併映の『プロゴルファー猿』のことをいっさい覚えておらず、さしあたり観たいのはこの『プロゴルファー猿 スーパーGOLFワールドへの挑戦!!』だ。スーパーGOLFワールドってなんだろう。
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