第4回
木に吊るされてぶらぶらしているぼろぼろのランドローバーを見る映画
映画配給収入ランキング 1982年 1位『コイサンマン』
[ 更新 ] 2026.08.10
とはいえ、1982年に興行的に日本で一番成功した映画だ。人気を集めたのには、差別的な物珍しさの視線だけにはとどまらない理由があるはずだろう。
観てみた。むちゃくちゃ変な映画であった。
いい意味でぜんぜん洗練されてない。がちゃがちゃだ。映画として垢抜けず、妙に愛おしい。サン人の主人公も、都市部からやってきたらしい学者や教師も、観光業者、軍人、テロリスト、市井の人たち、キャラクターひとりひとりが独特に魅力的で、カラハリ砂漠の日差しに負けない生命力がある。
物語はキャラクター集団ごとに進行し、やがてひとつになっていくのだけど、それぞれが気ままかつ真剣にコメディをやっていて、なかなか進行しないのがいい。主人公は間違いなくサン人のキコだ。けれど、観客として私たちがやたらに長時間見せられるのは、むしろぼろっぼろの四駆だったりする。あまりにしっかりと見せられたものだから、メーカーをちゃんと調べてしまった。ジープかと思ったが、ランドローバーらしい。
このランドローバー、修理半ばでかりだされブレーキがきかない。ブレーキのきかない様がとにかくじっくり丁寧に描かれて、見ている方としてはこの間はもう、がんばれと応援するしかやることがない。やっとまともに走ったと思ったら水中でエンストしたし、水中からワイヤーで牽引したら、引っ張り上がりすぎて木にぶら下がった。
木に吊るされてぶらぶらしているぼろぼろのランドローバーが観たい人は、いますぐ本作を観るといい。ものすごくどうしようもない気持ちになって、明日は好きなことをしようと思うだろう。
下ろしたランドローバーを、小さなカートが引いていく砂漠の遠景がすばらしかった。この世で一番のんきなマッドマックスだった。
このほか、緊張してありえないレベルで連鎖的にドジをやらかす学者(木からぶら下がるランドローバーの持ち主だ)、絶対にカードゲームしかやりたくない兵士、どれだけドンパチやってもミシンに向かう耳の不自由なおじいさん、国境の無人の詰め所に驚くほどきれいに突っ込む車、はしばしにとぼけた演出がされ、映画の喜びにあふれている感じだ。
クライマックス、村の小学校の子どもたちが、クラス丸ごとテロリストの人質にされ、そのまま砂漠まで連れて行かれる。見張りやすくするため、「(子どもたちに)円を作らせろ」とボスが言うのだけど、兵士が子どもたちを制御しようとしてもうまくいかない。
「円になってないじゃないか」
「四角になっちまうんです」
そんなセリフ、どうやったら書けるのだろう。アドリブだったらなおすごい。カラフルな服を着た人質の子どもたちは「みんなで歌うんだ」と兵士に命令されて、澄んだ声で歌いながら四角になって草原を、砂漠をいく。
他のどんな映画でも観られない、この映画でしか描けない霊妙な最終シーンも忘れられないものだった。変な映画だ。うっかり尊いとも思った。だけど、こういう作品はもう作ってはいけない。
1982年日本配給収入トップ10
1 コイサンマン
2 セーラー服と機関銃
3 キャノンボール
4 ハイティーン・ブギ
5 ロッキー3
6 少林寺
7 大日本帝国
8 レイダース/失われたアーク《聖櫃》
9 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙篇
10 ドラえもん のび太の大魔境/怪物くん デーモンの剣/忍者ハットリくん・ニンニン忍法絵日記の巻
※本文でもご説明の通り、『コイサンマン』は1982年当時は『ミラクル・ワールド/ブッシュマン』。
2位の『セーラー服と機関銃』も、今に語り継がれる有名作で、けれど私は観ていないのだった。8位の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』は、ちょっと聞いたことがあるけどなんだっけと検索して、インディー・ジョーンズシリーズの第一作目だと知った。これまた観ていない。『のび太の大魔境』に関してだけはまかせてください。50回は観ました。

