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第5回

『E.T.』は、ずっと映画の話をしている
映画配給収入ランキング 1983年 1位『E.T.』

[ 更新 ] 2026.09.01
 確信した。映画というものは面白い。面白いですみなさん!

 ……すみません。すでにご存じでしたか。私は人類の旧知の事実に今さらひとつひとつ驚いて、拾い集めるようにして生きているところがあるのです。どうかご了承ください。

 『E.T.』をはじめて観たのだった。面白かった、すばらしかった。E.T.の造形はもちろん知っていて、ちょっと怖いなと思っていたのだけど、映画を通じて見たその姿は、恐ろしいことなどなにひとつなくまったくチャーミングだった。首がにょーんと伸びることもはじめて知った。かわいい。

 冒頭で吠えた通り、私は『E.T.』を観て、そうか映画というのは面白いものなのかとやっと理解することができた。と同時に、ということはつまり、私はそもそも映画を面白いものだと思っていなかったのだとも分からされた。

 映画は怖いもの。恐ろしいことが起こり、人も物も傷つき、登場人物は肉体的にも精神的にもつらい思いをする。いかに成長しようとも、しんどいものは見たくないというのが、結局私にとっての長年の映画に対する態度だったのだ。

 アンコントローラブルなものが、どうにも楽しめない性質だということだと思う。常に安心でいたい。映画、もっと広く、物語というのは私にとって制御不能な暴れ馬であり、逃げ出したいものだった。

 ではなんで『E.T.』でそのイメージを、おそるおそる変えることができたのか。まず、『E.T.』は、「これは圧倒的に映画だ」と思わせてくれた作品だった。

 映画の中には、映画ではなさそうなことをやる映画がある。私にとって、例えば『スター・ウォーズ』は、映画というよりも『スター・ウォーズ』である。終始映画の話をしない、『スター・ウォーズ』の話をしている感じがする。『スター・ウォーズ』自身が『スター・ウォーズ』をやるのに夢中だ。私はもともと、こういった自分の話をしている映画であれば気軽に楽しめた。そうではない、映画をやろうとしている映画が怖いわけだ。

 『E.T.』は、ずっと映画の話をしている。主人公は小学生の男の子、エリオットだ。観る者には、等しくエリオットの目が授けられる。
 E.T.はUFOに乗って地球にやってきながら、帰りのUFOに乗り遅れた宇宙人なのだけど、“なんかよくわからない”大人たちが、“なぜか”捕まえにきて、“謎に”大人数で捜索し、執拗に暗闇を、腰につけた鍵束を鳴らしながら走って追いかけてくる。視聴者(エリオット)は子どもだから、大人の正体も行動の詳細も分からない。分からずに聞く鍵束のじゃらじゃら鳴る音はものすごく怖い。

 とにかく終始、大人たちが謎かつ力があり恐ろしい存在として描かれ続け、大人の私も子どもになって怖がった。こういう体験は、映画の話をしている映画にしかできないことだと私は思う。今回それにちゃんと向き合えたのは、物語を味わう度胸が知らない間についていたからだろうか。

 大人の不明さは、後半にかけてさらに増していく。瀕死のE.T.をかくまうエリオット宅に、宇宙服のようなものを着た大人軍団が大量にやってくるのはすごい演出だった。民家の窓から、むりやり宇宙服の人が中に入ってこようとするなんてことあるだろうか。なさすぎる。状況としてはホラーに近く、興奮に声を上げてしまった。
 E.T.の治療にあたって無菌状態にするためか、 家をまるごとビニールみたいなので覆うのも、観たことのない芸術的な景色だった。
 治療するために、白衣を着た人々も意味不明に家が渋滞するくらい無数にやってくる。一人残らず忙しそうに立ち働くけれど、誰が何をやっているのかはやっぱり分からない。だんだん、ダンスの振り付けのように見えてくる。大人の立ち振る舞いは形式だ。かつて自分が子どもだった頃に見た大人の景色そのものだ。うわあ、面白い。

 これを言うと作品を軽薄にしてしまうかもしれず心配だけれど、もんのすごくおしゃれな作品であって、私はおしゃれなものが好きだから、そこにもすっかり参った。
 逃げ隠れていたE.T.をおびき出すためにエリオットが道に撒くのはカラフルなマーブルチョコだし、E.T.がエリオットの家にあるがらくたを集めて、UFOと交信するための通信機を作るシーンがあるのだけど、パラソルとか、子ども用の小さなミシンとか、レコードプレーヤーとか、カラフルな電子単語帳みたいなものを雑多に組み合わせておりキッチュでポップだ。
 E.T.をかくまうエリオットの家のクローゼットには大きな動物のぬいぐるみがぱんぱんに詰まっている。有名な、自転車のカゴにE.T.を乗せて空を走るシーンで乗る自転車はBMXである。しびれてどんどんたまらなくなっていった。

 これが映画だと分からされながら、我ながら驚くほど興奮して堪能していた。そりゃ、みんなが映画を観たがるわけだよ。私ももっと映画が観たいと思った。こんなこと感じたのは、本当にはじめてなんです。嬉しい。


1983年日本配給収入トップ10
1 E.T.
2 南極物語
3 スター・ウォーズ ジェダイの復讐
4 フラッシュダンス
5 探偵物語/時をかける少女
6 007 オクトパシー
7 汚れた英雄/伊賀忍法帖
8 男はつらいよ 花も嵐も寅次郎/次郎長青春篇 つっぱり清水港
9 プルメリアの伝説 天国のキッス/刑事物語2 りんごの詩
9 ランボー

 毎年の日本配給収入1位を観るのが本連載の方針である。1980年の1位だった『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』の続編となる『ジェダイの復讐』はここでは3位にとどまってしまい、企画の上で続編を観ることが叶わなかった。自主的に、ただ観ようと思う。
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