ウェブ平凡 web heibon




第7回

普通に考えて、まあ終わったら帰るよな
映画配給収入ランキング 1985年 1位『ゴーストバスターズ』

[ 更新 ] 2026.10.01
 映画のことを恐れてこれまでちゃんと観てこなかった私が、年ごとの日本の映画興行成績の1位の作品を観るのが本連載だ。生まれ年である1979年の1位から観はじめて、1985年までたどり着いた。私は6歳になった。

 ここへきて、ちょっと景色が変わった感じがする。これまで観てきた映画は、どれも名前だけは知っていて、それは後年テレビでやっているのを観たとか、続編をきっかけに知ったとか、残響から存在を受け取っていたわけだ。公開当時は物心がついておらず、リアルタイムを知らない。

 それが、1985年の1位『ゴーストバスターズ』には、映画館には行かずとも、公開当時の雰囲気が記憶にぎりぎりわずかに残っている。根本から触れていた感覚があるのだ。どうやらこの辺りの年代の映画から、しっかりと地に足をつけて身に覚えがあるらしい。

 これはきっと、それぞれの世代がそれぞれに持つ感覚だろう。各々、身に覚えのある最初の映画が存在するとして、私にとってそれが『ゴーストバスターズ』だというのは光栄だ。だって最高の映画だろう、『ゴーストバスターズ』って。

 とにかくアイコニックに尽きる。通行止めのマークのなかにおばけが閉じ込められているロゴマーク、どうしたらあんなにかっこいいデザインを考えつけるんだ。テーマソングもあまりに強い。主たる登場人物が博士のおじさん3人組かつ、最終的に4人組になる流れも完璧で、コスチュームもおそるべき完成度だ。最後に登場してニューヨークの街を破壊する、巨大なマシュマロマンのキャッチーさも半端ではない。名作であるのと同じくらい、いわゆるIPとしての輪郭線があまりに太い。見事だ。

 小学生の頃に友達の家で観たのをはじめに、何度か観たことがあったはずだ。改めて観てみると、本連載でこれまで取り上げたどの映画よりも既視感があった。「楽しいだけじゃなく、おばけがけっこうちゃんと怖い」というのが元々持っていた印象だったのだけど、怖いというより、意外に込み入った大人の会話をしてたんだな、と気づかされた。

 おばけ退治の商売を始めるにあたってその資金を作るのに、3人組のうちのひとりの生家を担保にお金を借りるのだけど、「三重担保なんて普通」とか「利息1割9分、暴利だ」、「5年目の利息だけで9万5000ドルだぜ」なんてシビアな話をしていたのは、これまで完全にスルーしていた。

 おばけの捕獲装置を使う際、そのビームを交差させることによって「生命活動が一瞬にして停止し、細胞分子が光の速度で爆発する」という理屈に「陽子転換だ」と返しているのも、子どもの頭で聞くよりもよりいっそう、わからないことに迫力を感じる。

 後半は話の流れとしてはシンプルなのに、「ヨハネの黙示録を読んだことは? 審判の日だ」とか「あらゆる古代宗教が世界の終末神話を持っている」と、ぱっと聞いただけではついていけない話をさらっとしていた。

 その情報量の多さを、全部手から滑り落としてこれまで観てきたのだなと思いながら、ひとつだけ、映画の含みみたいなものが当時から私にも届いていたことに気がついた。マシュマロマンだ。

 広告のキャラクターが、巨大化したうえ凶暴化までして街を踏み荒らす。いつもは笑顔のキャラクターが、むちゃくちゃ怖い顔をする。資本主義的なものが、平和で問題のない顔をしながら、でもハッピーを必ずや保証するものではないことは、多くの子どもが感じていることではないか。「楽しいですよ!」 とおいでおいでされても、子どもにとって本当に楽しいかどうかはわからない。子どもだからこそ疑える。

 私はそういう資本的で商業的な“楽しそうさ”も、丁寧に恐れる子どもだった。かつてマシュマロマンを見て、その「おいでおいで」の怖さを描いていると、言葉にはできないまま受け取っていたなと思えた。大人の目線で本作を「IPとしての輪郭線があまりに太い」などと書いたことを恥じるしかない。

 私はこの映画のラストで、仕事を終えてニューヨークのヒーローになったゴーストバスターズの4人が、市民の大声援に見送られ車に乗って帰るのがすごく好きだ。

 ヒーローになったんだから、エンドロールが始まるまで人々に囲まれてでれでれしたり、テレビのインタビューに応える姿で終わってもよさそうなところ、まあまあさっさと営業車に乗って帰っていくのだ。

 かまわない様が格好いいとか、日常は続くのだとか、そういう物語的な評価をしてるんじゃなく、まあ終わったら帰るよなというのが、まっとうで嘘がなくていいなと思う。見送る大量のモブがまた、統率されない自然で勝手なふるまいで、やけに生き生きしているんだこれが。

1985年日本配給収入トップ10
1 ゴーストバスターズ
2 グレムリン
3 ビルマの竪琴
4 ランボー 怒りの脱出
5 ネバーエンディング・ストーリー
6 ゴジラ
7 乱
8 Wの悲劇/天国にいちばん近い島
9 007 美しき獲物たち
10 男はつらいよ 寅次郎真実一路/ねずみ小僧怪盗伝

 アイドル邦画にも私はまるで疎く、『Wの悲劇』と『天国にいちばん近い島』を知らなかった。前者が薬師丸ひろ子主演で後者は原田知世主演作だ。ん? それって……と前年の1984年のランキングを改めたところ、4位の『メイン・テーマ』と『愛情物語』もこのふたりの主演作の併映だし、さらにその前年1983年の5位の『探偵物語』、『時をかける少女』もそうで、1982年の2位があの『セーラー服と機関銃』であり、80年代のアイドルの力に感じ入った。
SHARE