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第287回

かわいい触角。

[ 更新 ] 2025.03.10
一月某日 晴
 朝から喉が痛いと思いながら、食料品を買いに。
 いつもと違って、何かを買いたいという欲望が起こらず、むしろ何も買いたくない。
 魚も肉も、どうしても買いたくなかったので、ほんの少しの野菜だけ買って帰る。
 夕方、突然寒気がして驚く。
数分たつと、さらに寒気は激しくなり、歯がかたかた鳴るくらい寒い。
 その場で熱をはかると、三十七度、けれど十五分後にはかったら、三十九度二分になっている。
 こんなに明確に自分の熱が上がる様子を観察するのは、生まれてはじめてであることが、少し嬉しいような嬉しくないような。
倒れふしながら、さらに深く倒れてゆく感じ。

一月某日 晴
 熱は最高三十九度五分まで上がったが、お正月休みでかかりつけ医院はまだ開いていない。
 インフルエンザなのかコロナなのかよくわからないけれど、ともかく家にあるアセトアミノフェンの入った薬を飲み、冷えピタを額に貼り、ポカリスエットと水を枕元にそなえ、ひたすら倒れふし続けているうちに、熱が少し下がってくる。
 固形物は食べられず、ヨーグルトを少しだけ、すするようにして飲みこむ。

一月某日 曇
 発熱三日めにして平熱に。でも、食欲がない。
 食欲のない自分、というものが珍しくて(ふだんは常に大食い)、なにか、清潔な生物になったような心地。

一月某日 晴
 熱も下がり、寝ているのにも飽きたので、起き上がり、お正月の残りの数の子とお雑煮とかまぼこと筑前煮で、お酒。せっかく清潔な生物になっていたのに、逆もどりである。
 元気が出て、すごくていねいに歯をみがく。

一月某日 晴
 句会に行く。
 五人のメンバーのうち、四人までが、年末から一月初旬にかけて、高熱を発していたことが、話しているうちにわかる。うち二名はインフルエンザ、二名はインフルエンザかどうかは不明だが(医院が開いていなかったので調べられなかった)、ともかく全員が三十八度五分以上の発熱。
 年末年始のウイルスの活発さに、みんなで感心しあう。

一月某日 晴
 編集者と打ち合わせ。
 髪をうしろでまとめ、耳の横にかわいいほつれ毛のように少し髪を残しているので、
「それ、似合ってますね」
 と言うと、耳の横のほつれ毛のような少しの髪を、最近は「触角」と呼ぶのだと教えてくれる。
「触角の太さを決めるのが、けっこう悩ましいのです」
 とのこと。
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