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第246回

投擲眼鏡萌え。

[ 更新 ] 2021.10.10
八月某日 晴
 オリンピックがいつの間にか始まっている。テレビをつけると、円盤投げをやっている。力いっぱい円盤を投げる選手たちに、心をうばわれる。
 なぜだか、陸上の投擲競技の選手(男女にかかわらない)に、いつもうっとりと見惚れてしまうことを、二年ぶりに思いだす。二年前の世界陸上選手権の時も、そういえば、円盤投げ、やり投げ、砲丸投げ、ハンマー投げの、すべての選手たちに心をうばわれ、順位やらどこの国かなどについてはすっかり忘れ去り、ただただ選手たちの肢体と動きに、じーーーっと見入ったものだった。中でも、眼鏡をかけている選手(男女にかかわらない)には、ことに心をひかれる。
 これはもしや、「投擲眼鏡萌え」?

八月某日 曇
 夏目漱石の『硝子戸の中』を、夢の中で読んでいる。語り手とポルトガル人の教授がポルトガル語で会話をしていると、女が湖から波をたてて浮かびあがり、しずくをたらしながら二人の横に立つ、という書き出しである。
 漱石の作風とは少し違うのではないかと、夢の中で疑いつつも、どんどん読んでゆく。最後は女が幾人かの女に分裂し、しずくをたらしたまま湖の最寄の駅まで円陣を組んで踊ってゆく、という結末。あきらかに漱石ではないが、まあいいやと思いながら読み終わる。

八月某日 曇
 数独の名づけ親であり世界に数独の解き方を指南してまわってくれた恩人である鍜治真起さんが亡くなったというニュースを知り、うち沈む。
 ここしばらく(二週間ほど)数独から遠ざかっていたが、鍜治さんのご冥福を祈るために、『“数独の父”鍜治真起が教える難問数独』を出してきて、ぱっと開いたページに書きこんである鉛筆書きの自分の解答を消し、ゆっくりとまた解いてみる。
 本には問題が108あり、ところどころの問題の下には、不思議な一言が印刷されている。「その先にまた愛があった」「おいしいものを食べに行きますか」「おーい、ダイジョブかあ」
「どこかにマグマが湧いてきた」などなど。そして、最後の108問めには、「遠くから見守っています」の言葉が。
 すべての数独ファンを、どうぞ、遠くから見守ってください、鍜治さん……。

八月某日 曇
 なんだかしんみりしているので、高校野球をみる。ブラスバンドの応援の音楽が、無観客の甲子園球場いっぱいに響いている。
 どのチームの演奏も、たいへんにこまやかで美しく正確である。こんなに高度な技術を駆使して演奏しているのだということは、無観客でなければわからなかったのだなあ、と、またしんみりしつつ、ドラクエウォークで「伝説のグルメマスター」の称号を得るために、必死にズッキーニのモンスターを倒しつづける。
 めでたくグルメマスターの称号を得ることができたら、鉛筆書きの解答をすべて消し終えた『“数独の父”鍜治真起が教える難問数独』に、ふたたびとりかかる予定。すでに、自分のこの依存体質をただそうとする意志が皆無となっていることには目をつぶり、ひたすらズッキーニを倒しつづける。
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