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第297回

完全なムーンウォーク。

[ 更新 ] 2026.01.10
十一月某日 晴
 庭にスズメバチが飛んでくる。
 昨日も来たし、一昨日も来たし、その前も来ていたし、すでに十日ほど続けてスズメバチの訪問を受けている。
 一昨年の十月に、水道のメーター交換のお兄さんから、「庭にね、スズメバチがいますよ。遊びに来ている感じで」と言われたことを思いだす(東京日記 第284回参照)。
 毎日そっと観察すると、スズメバチはどうやら黄色いこまかな花の咲く樹をめがけて来ているらしい。
 黄色いそのこまかな花は、アブやハチに大人気で、スズメバチ以外にも、何種類ものアブ及びハチが来て、花にもぐりこみ、蜜を吸っている。
 なるほど、スズメバチもこの花の蜜が好きなんだ……と、なごやかな気持ちに。

十一月某日 晴
 今日も庭にスズメバチが来た。怖いけれど、わたしを刺しに来るのではなく、黄色い花の蜜が目当てで来るのだとしたら、静かに共存したい。と願いつつ、遠巻きに観察。
 ほかのアブやハチが、体の半分くらいまで花に埋もれているのにくらべ、スズメバチは花のまわりを、ゆっくりと上下しながら、巡回するように、いつまでも飛び続けている。

十一月某日 晴
 虫に詳しい友だちと、お茶をする。
 家に毎日来るスズメバチの動向を伝え、
「蜜が好きなんだねー」
 と言うと、友だち、
「ちがうちがう、蜜に来るハチやアブをつかまえに来てるだけ。幼虫に、肉団子を運ばなきゃならないからね」
 と、なで斬りのように言い放つ。
 なごやかな気持ち、一瞬で雲散霧消。

十一月某日 曇
 仕事で群馬県に行き、途中の高崎駅地下のフードコートで、昼食。
 ラーメン餃子セットを食べていると、やはり同じラーメン餃子セットを食べている隣席のサラリーマンと、目があう。
 あわてて、両方で目をそらしあう。
 食べ終わり、なんとなくまた隣席を見ると、サラリーマン氏は、残った餃子の酢醤油を、残ったラーメンのおつゆに注ぎ、丼を両手で持ち、汁を勢いよく全部飲み干している。
 サラリーマン氏が丼を顔から離す直前に、あわててまた目をそらす。
 餃子の餡は、結局、肉団子だしな、スズメバチのことは責められないよ、と、自分にだか誰にだかわからない言い訳のようなものを思いうかべつつ、残したラーメンのおつゆに自分も餃子の酢醤油を注がんとする衝動を、必死におさえる。

十一月某日 晴
 公民館でのムーンウォーク講座に出席して、完全なムーンウォークを習得したよ。
 と、友だちからラインがくる。
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