第294回
うす青い小エビ。
[ 更新 ] 2025.10.10
暑い日が続き、エアコンづけになっているうえに、暑すぎてお風呂にゆっくり浸かる気持ちになれず、シャワーばかり使っているので、久しぶりに朝風呂に入ることにする。
窓をあけてお湯に浸かっていると、近所の家のラジオから、「赤い花白い花」が流れてくる。芹洋子の歌う、うらがなしいメロディーが、午前六時の風呂場の窓から流れこんできて、思わず湯舟の中でかたまってしまう。
三番まできっちりと演奏は流れ、その間じゅう、どうしていいかわからないくらいものさびしい心もちになり、せっかくお風呂で温まっているはずなのに、この世がもうすぐ終わるような気分に。
八月某日 晴
スマートフォンで電話をかけようと、画面の数字に指をすべらせる。ところが、数字はすべて生きている小エビで、指を当てるとどの小エビも動きまわってしまい、数字すなわち生きた小エビたちは、バラバラに入り混じり、どの小エビがどの数字なのか、さっぱりわからなくなる。という夢をみる。
電話がうまくかけられない、というタイプの夢は、昔から何度もみてきたが、アナログ電話の頃には、ダイヤルに指がうまく入らない、デジタルのプッシュホンが登場した時には、ボタンがゴマ粒くらいの大きさしかなくてうまく押せない、携帯電話の時代は、文字盤がネトネトで指がくっついてうまくいろいろな数字を押せない、というパターンだった。
そして今。スマートフォンでの悪夢要因は、生きた小エビである。
これはもしや、進化なのか?
ちなみに、生きている小エビの色は、うす青く、みな、いちようにひげが長い。
八月某日 曇
久しぶりに、最高気温が三十度に。
近所の人と道で会い、少しだけ話す。
「昭和の時代は、最高気温はいつもこのくらいだった」
と言うので、大きくうなずく。
打ち合わせで会った編集者も、
「昭和の時代の最高気温は、いつもこのくらいだった」
と言うので、これにも大きくうなずく。
帰りに近所の八百屋さんで買い物をしたら、
「昭和のころの最高気温は、いつもこのくらいでしたよねえ」
と言われ、大きくうなずく。
結局、この日は、総計十二人の人から、「昭和時代の最高気温」について語られたのだった。
八月某日 曇
なんだか、かゆい日。
いろいろなところがかゆいので、片足で立って、もう片足は折り曲げ、ひざの少し下にくっつけ、どこにもつかまらずに一分ほど立ちつづける。
かゆさはあまりおさまらなかったが、自己満足感にひたれたので、よしとする。

