第306回
呪いのステーキ。
[ 更新 ] 2026.10.10
はじめてのスーパーマーケットに行ってみる。
このスーパーマーケットは、十五年ほど前に引っ越してきた時には、今の場所ではない、少し離れたところに建っていたのだが、その後じきに閉店した。建物は取り壊され、新しいマンションとなったその前を通るたびに、好きなスーパーだったのにと、なつかしくさみしく感じていた。
ところが数年前に、突然同じスーパーマーケットがあらわれたのだ。
場所はほんの少しだけ違っているが、どう見ても同じスーパーである。
もしかしてこれは「転生」?
いやちがう、では、一種の「輪廻」?
などとぐずぐず怖がっているうちに、すぐに月日がたち、この新たな同じスーパーで買い物をする機会を失していた。
でも、今日はなんだか、ついに恐怖を克服して入店できる気がしたので、入ってみたのである。
以前とは、売り場の雰囲気も品ぞろえもだいぶ違っていて、これはたぶん「転生」でも「輪廻」でもなく、高校入学時に突然髪が金色になっている少年のような「高校デビュー」の一種なのだと納得。

八月某日 曇
いつも乗っているバスを待って停留所に立っていたが、全然バスが来ない。バス停に表示してある時刻表を見ると、来るべき時刻を十分以上過ぎている。事故だろうかと案ずるが、その後十分たっても、来ない。
もう一度時刻表を見ると、小さな字で、
「土日・祝日は、このバスは運行されないことになりました」
とあって、衝撃を受ける。
八月某日 晴
平日なので、いつものバスに乗る。運行されていてほっとするが、車内に「この路線は九月三十日で廃止されます」と張り紙があり、さらなる衝撃が。
八月某日 晴
自宅近くを通るバス路線廃止のショックからようやく立ち直り、これからは二十五分かけて駅前まで歩くことを決意。健康にもいいだろうし。
というわけで、十月からの予行演習として、早速駅まで歩きはじめたとたんに、石に蹴躓く。
呪いの言葉をはきながら、今月はじめて入った、れいの「高校デビュー」スーパーで、オージービーフステーキを買って、うさをはらす。

八月某日 曇
このところのマイ鶏弁当ブーム(東京日記第304回参照)を、会う人ごとに吹聴していたのだけれど、その中の一人から、
「『しいたけ弁当』が、すごいです」
というメールをもらう。
早速ネットで見てみると、たしかにすごい。肉厚の大ぶりなしいたけがご飯をおおっており、そのうえお弁当の名前が「素晴ら椎茸」。
東京駅構内の「祭」という駅弁屋さんで購入したが、必ず売っているわけではなく、ごく稀に、運がよければ遭遇できるとのこと。
全国に名作弁当がひっそりと存在していることを祝い、メールをくれた編集者にお礼を書きながら、これで、うさばらしのためについ購入してしまった呪いのステーキの、いらぬ散財が帳消しとなった心地に。

