第1回
はじめに 山姥に導かれ
[ 更新 ] 2016.02.27
これは何を意味するのだろうか。自然の二面性、つまり恵みをもたらすと同時に災害ももたらす、そういう大自然への畏怖が、山の神の末裔としての山姥の二面性を表しているという大雑把な説明もできるかもしれない。しかしそれだけでは説明がつきそうにもない。安易な定義を拒むかのような「山姥」のキャラクターの広がり具合に私はたちまち魅せられてしまった。
妖怪とはそもそも、古い神の神性が薄れて俗化し、堕落していった姿だといわれる。では、山姥とはそもそもどのような神だったのか、そして人々が親しみや恐怖を覚えつつ作り上げていった山姥像にはどのような願いや恐れが表れているのだろうか。
山姥の伝承は日本のあちこちに残り、山姥神社なるものが存在する所もある。山姥が信仰の対象となった背景には、その源流が存在すると思われる。多くは豊作や子宝をもたらす神として祀られていることからもわかるように、その起源はアニミズムの時代にまでさかのぼるだろう山の神や姥神だ。姥神もまた、「おんばさま」「うばさま」などと呼ばれて長く人々に信仰されてきた。本連載は主に姥像残る場所を訪ね、姥神とその土地の人とのかかわりに思いをはせることで、姥神とは何者なのか、そのイメージは何を意味するのか、山姥、巫女、橋守など多様なイメージが交錯する姥神に、人々が抱いてきた信仰について考えてみるエッセイである。
絵・文字 松井一平