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第8回

休暇と大人

[ 更新 ] 2022.04.28
 編集者からのメールやLINEに「ご存知かとは思いますが……」という枕詞が付く悲しみの季節。ゴールデンウィーク進行が来た。簡単に説明すると、長期休暇の期間は印刷会社をはじめもろもろの一般企業もお休みになるので、その前に原稿を全部よこせという恐ろしいデスマーチである。つまり普段より〆切が早くなる。それだけならまだいいが(よくないけど!!!)中には「ゴールデンウィーク明けまでによろしくお願いします」という鬼のような案件もある。GW中出版社が休暇をとっている間にミッチリ仕事をしろという意味だ。そういう案件が来ると思わずパソコンの前で両手両足を大きく広げて「威嚇のポーズ」をしてしまうが、普段〆切を破りまくっているカス作家なので何も文句は言えない。しこうして、人が働いているときにダラダラし、人が遊んでいるときに死んだ眼で働くというサイクルが出来上がって十余年。すっかり休暇との付き合い方が分からなくなってしまった。

 カレンダー通りに休みがある仕事をしていた時期は、休暇というものは明白で、確かにそこにあるという実感があった。金曜の夜が待ち遠しく、日曜の午後から憂鬱になる。祝日は嬉しいし連休になっていればもっと嬉しい。そして友達とも予定を合わせやすい。しかし現在は24時間365日、起きている間は生活と仕事がヌル~~ッと混ざり合っているような曖昧な状態で、作業が終わりゃ休むし、終わんなきゃ数週間は余裕で部屋にこもりっきりになっている。メリハリがない。たまに友達に誘ってもらっていそいそお出かけするのが楽しみだったが、感染症問題でそれもめったなことになってしまった。そうなるとたまの休みも普段通り一人で過ごすことが圧倒的に多くなるのだが、そこでも悪い意味でダラダラしてしまって「充実した休日」というやつを過ごすことができない。

 夕方くらいまで仕事して、納品終わってさあ寝る時間まで好きに使えるぞみたいな場合はいい。飲みに行くか自分ちで飲むかして、配信で映画でも観て風呂入って寝れば大贅沢だ。問題は、本当に予定が朝から何も入っていない日が数日ある場合。年に数回もないが、そういうときが正直かなり困る。たいていは映画館に行ったりしてなんとなく予定を埋めるのだが、観たい映画がないときなんかは途方に暮れてしまうのだ。ちょっといいカフェとか飲み屋に行ってラグジュアリーな時間を過ごすか……と思って実行するも、行き慣れない店だとどうしてもソワソワ緊張してしまうし、じゃ自分ちでゆっくり過ごすかとなると、普段ほったらかしにしまくっている網戸の汚れとか風呂場のカビなんかが急に気になって、チマチマ掃除して一日が終わってしまったりする。気合を入れてベランダに椅子を出して酒を用意して「何もしない」をするぞ! と決意しても、ぼんやりすればするほど頭の中に次の仕事のスケジュールとかプロットとかがふわふわ浮いてきて、ぜんぜんリラックスできなくなる。

 京極夏彦先生の京極堂シリーズのどれかに、旅行かなんかに行った関口くんが一生懸命休もう休もうとするのにうまくいかず、通りかかった京極堂に「アンタいま頑張ってリラックスしようとしてるでしょ(笑)」と見透かされる(こんなラフなセリフではないが)シーンがあった記憶があるが、あれを読んだときにはドキッとした。私もまさにアレだからだ。休むのが下手な人。のろまとせっかちが脳内で同居していて、腰が重いんだけどちょっとのスキマ時間でも何か余計なことを考えずにはいられず、頭の中がずーっとうるさい。かといってワーカホリックだったり仕事が大大大好きというわけでもない。オンとオフを切り替えるのが下手なんだな、たぶん。

 遊ぶときは遊んで働くときは働く! みたいな、切り替えがしっかりできる人って人生が上手なイメージがある。大人っぽい。判断力とかも高そうだし。実際そうやって遊びも仕事もそのときそのときで集中してやったほうが効率もいいしストレスも溜まらないだろう。注意力が散漫で集中力がないと、仕事はもちろん遊びにも悪影響が出る……。わかっちゃいるんですけどなかなかキッチリ切り替えることができない。

 そもそも、決断→行動にかかる時間が長い。毎日のことでも、「風呂に入ろう」と決めてから実際に風呂に入るまでウダウダと3~4時間くらいかかってしまうので、最近は午後6時くらいになったら「風呂に入るぞ」と考え始めて10時に入る、みたいな“前倒し”をしている。遊びや休暇の計画もこの塩梅で、朝起きて「今日はお出かけしてみようかな……」とか考え始めてもケツが動くのは午後遅くとかになる。となると少なくとも前日には休暇のスケジュールをきっちり立てておかないと、絶対にこなすことができない。気ままに無計画に休暇をエンジョイする、みたいな行動に憧れるんだけど、あれはパパッと物事を決めてパパッと動ける人がやることなんだな。今日は積んでる本を読むかと思ったはいいが、本棚の前でどれを読むか悩んでるだけで数十分経ってしまうような優柔不断人間には、かろやかな休日は縁遠いのか。

 なんだかそういうフットワークの重い自分が嫌になってきたので、実は次の休みは無軌道な休暇をとろうかなと思っている。具体的には、自分ちの一番近くのバス停に行って、一番最初にやってきたバスに乗って一番遠くまで行くのだ。ゆうて都内をグルグルしてるバスだからたいして遠くには行かないだろうが、とにかく知らない街に行ってみたいのだ。知らない街で、ふらふら歩いて、できたら喫茶店か定食屋でなんか食べて、またフラフラして、誰とも喋らないで一日過ごして、またバスに乗って家に帰ってきたい。そんなにお金もかからんだろうし、降り立った場所によってはビジホかなんかに一泊してもいい。想像するだけで楽しい。長い散歩みたいな小旅行だ。でもたぶん、その間も私はうまく「ぼんやり」できないんだろうな。きっと別に今考えなくてもいいこと(ゴールデンカムイの最終回とか原付免許とか仕事のこととか仕事のこと)をえんえんと脳内でこねまわしながら、またイマイチ納得できない休日を過ごすに違いない。一度でいいから、何の心配事もやらなきゃいけないこともない状態で休暇を楽しんでみたい。何もしないで、ほんっとうに何もしないで、ラグジュアリーな大人のバカンスを楽しんでみたい。温泉旅行とまでは言わん。隣町のスーパー銭湯だっていいよ。

 てことはだよ、とどのつまり大人の休暇にはちょっぴりのお金と、そして心の余裕が必要で、そのためにはあらかじめ部屋をきちんと片付けて仕事をちゃんと納期通りに納品することが一番大切なことなのでは? ということに思い至り、なんか落ち込んだ気分になったのでこの原稿もここまでにしてお酒を飲んで寝ることにします。あー、休みたーい。(以下次回)
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