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第3回

収納迷子からの卒業

[ 更新 ] 2024.01.11
 “収納偏差値”という言葉があったら、私はひどく低い。便利な収納家具やグッズを買っても、決まって10日目くらいから元の木阿弥になる。
 とりわけ台所用品は、洋服や化粧品と違って、形や大きさもさまざま。使用頻度の差も激しく、よくよく考えないとビシッと決まらない。
 そのうえ、たとえば重箱やかさばる製菓材料は吊り戸棚やパントリーの奥にしまうのが一般的だが、その“一般”は個々の台所仕事の癖や習慣に即しているとは限らない。すぐ手の届くところに置いたほうがいいという人もいる。
 私にとっての「ベスト」がどこなのか、長い間迷子だった。

「東京の台所」という長年続けている取材では、とくに微に入り細に入り収納法を観察する。収納偏差値の高い人の工夫はどれだけ見ていても飽きない。
 その11年間で、たくさんの発見があった。
 大きくくくると、「自分流に徹した人が収納を制する」。

 玄関に根菜や非常用の水、土鍋、缶詰などのストックを置いている人を見て実感した。エアコンの影響を受けにくい場所なので、年間を通じて温度が安定している。さらに、玄関は北側や日当たりの悪いところに位置することが多く、いわゆる冷暗所となる。そのためじつは根菜や乾物のストックに向いている。
 水のペットボトルの箱や土鍋を玄関に置いたところで困らない。下駄箱をとっぱらい、棚や椅子を置いて、ストックヤードにする例もあった。
 東京に多い1Kやワンルームならではの工夫ともいえる。玄関に食品なんてと言われそうだが、自分が良ければ置いていけないものでもない。

 収納を探究すると、いかに自分の思考が凝り固まっていたかに気づかされる。
 アウトドア用のテーブルを愛用している男性も印象的だった。たためば布団が敷ける。バタフライ型で、客が来たらテーブルを延長できる。屋外用の道具は軽量でコンパクト。場所を取らないという意味で、じつは狭小の室内にも向いている。外のものを中で使うのもアリなのだ。

 もうひとつ、即実行できる裏技が、ラベリングだ。これは私の収納偏差値を確実に上げてくれた。
 収納グッズを使いこなしたり、百円ショップのケースなどを駆使して工夫したりすること以上に大事なのは、どこに何があるか、モノの住所を把握すること。そして、住所は、モノの種類ではなく、行動の動線で分けるとうまくいくと収納上級者たちから学んだ。

 冷蔵庫内を例にとる。
 青海苔や味海苔や焼き海苔は、「海苔チーム」に分けがちだ。
 でも我が家で青海苔はお好み焼きで使うことが9割。ならばと、「お好み焼きチーム」を作って、そちらに入れたほうが便利だ。透明ケースのラベルには「お好み焼きセット」と書く。オタフクソース、天かす、カツオの粉もこちらへ。

 味海苔は朝食で食べることがほとんどなので、「朝食セット」に。そこにはジャムやスライスチーズ、佃煮など朝食べるものが入っている。
 忙しい朝、そのケースを取り出せばワンアクションで用意できる。片付けも全てそこにしまうだけ。「海苔チーム」「ジャム&バターチーム」「チーズチーム」にそれぞれ片付けなくていい。
 モノの種類ではなく、行動でグルーピングすると、家事の手順がシンプルになる。

 このときの肝はラベリングで、どんなに優れたチーム分けをしても、家族全員が把握していないと意味がない。「あれどこ」「これどこ」と聞かれた挙げ句に、片付けかたも間違っていたら、手間が増えるだけだ。
 モノが多いのに片付いている台所は皆、ラベリングが完璧だった。

 良いアイデアを取り入れるとき、自分の癖や性格をわきまえることが必要である。ものぐさな自分が、ラベリングのたびにシールやマジックを用意するのでは続かない。
 そこでラベルライターという道具を買った。スマホに「朝食セット」と打ち込めば、Bluetoothで接続された機械からすぐにシールがニョロリと出てくる。文字の大きさや書体の指定が可能で、好きなデザインにできる。自動カッター付きで、私がやるのは貼ることだけ。
 ボトル式の調味料は、ガス台下の深い引き出しに縦置きしているので、買ってきたらすぐ「めんつゆ」などと打ち出して、蓋に貼ってからしまう。ラベルライターはレンジ横が定位置だ。
 おかげで死蔵品も、家族の「あれどこ」「これどこ」もなくなり、冷蔵庫も引き出しも吊り戸棚もスッキリした。
 収納のコツはこんな簡単なことだったのか。でも人様の台所を見て歩かないと、気づかなかった。

 長い間、家事全般について人よりできていないという劣等感が強かったが、几帳面でないからとても無理と決めつけていたことは、案外、見かたを変えたらもっと早くにクリアできていたかもしれない。そうしたら、もう少し自分を好きになれていたのかも。

 偏差値などという言葉を使ってしまうくらいに、自己評価が低いまま生きてきたけれど、暮らしにはまだまだ考えかたひとつで軽やかになれるティップスが隠れているに違いないと、「リンゴ酢」や「寿司酢」と書かれたラベルが教えてくれる。

 



 

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