第1回
「ひでえ服」のその先へ
映画配給収入ランキング 1979年 1位『スーパーマン』
[ 更新 ] 2026.07.01
作品を観たり読んだりしたことは一度もなかったけれど、存在はもちろん知っている。
正義の味方、平和を守るスーパーヒーロー。青い全身タイツの上から赤いパンツを履き、赤いマントをひらめかす。普段は新聞社に勤めるちょっと頼りない記者だけど、街の誰かが助けを求めるのを察知するやいなや変身し、どこからともなくやってくる。怪力で、空が飛べる。
この程度の知識だったら、生きていれば自然についてしまう。それこそがスーパーマンだ。
おおもとのアメコミが1938年登場、本作はその後1978年にアメリカで公開された作品らしい。概要を見ると、全編で152分あるという。
長い。
だってスーパーマンといえば、困っている市民をバーンと助けてめでたしめでたし、じゃないのか。そんなに長時間保たせられるのか。2時間以上かけて何をどうスーパーマンするんだろう。
素直な感想として、まんべんなくスーパーマンのことを知ったなという満足度がまずあった。生い立ちからスーパーマンとして活躍するにいたる立身の、おおよそのすべてが詰まっている。こんなに詳細に知れるものかと思うほどに知れた。
赤ん坊時代からじっくりやるから、思った以上になかなか変身しない。観ながらにして、私の関心事は、いつあのスーパーマンになるのだろうというほぼ一点に絞られていった。
前半が終わろうかというころ、ほとんどやぶから棒にやっと、しかし急に変身してバーンと飛び出したから驚いた。例のコスチュームの理由の説明は一切ない。それ以外のことは詳しく教えてくれたのに。
コスチュームについては、新聞記者として勤務しながらスーパーマン活動をすることになる後半で思わぬ形で言及された。緊急事態に接し、町中ではじめてスーパーマンに変身するシーンだ。変身直後、姿を見た市民が、
「ひでえ服だ」
と、言ったのだ。あっ、ひでえ服という認識で、いいんだ。
言い出せずにいたけれど、ひどい服である。セリフの原文は「That's a bad outfit!」で、スラングで「イカした服だ」という意味もある。とはいえ、見た人が驚いて、なにか言おうとする服ではあるわけだ。サーカスのストロングマンやレスラーのコスチュームがモデルだそうで、初登場当時、それが格好いいものとされていたのかどうかは分からない。いずれにせよ、本作が制作された時点では、すでに十分「That's a bad outfit!」だったわけだ。
もちろんスーパーマンは、言われたところでまったく構わず空を飛び、正義の味方としての強烈なアイコンを輝かせて大活躍していた。その構わなさからは、キャラクターとしてのスーパーマンの強さがだんだんあらわになっていくようだった。
本作のあとも『スーパーマン』は脈々と映画化され続け、昨年2025年にもリブート版が公開されたそうだ。ひでえ服だけど、いつまでも新鮮な正義のヒーローである。その絶対性を感じた。
ラストは思いも寄らない展開だ。スーパーマンと言うだけあるというか、スーパーマンというネーミングによって許される、これぞ離れ業であった。
観ずともどこかから入ってくる知識だけで、薄く薄く知っていたスーパーマンの実際を、152分観続ける。原液をごくごく飲むように取り入れて、みるみる体に染み込むようだった。概念としてその印象を塗り重ねてきたスーパーマンの存在が、映画1本観るだけで、すっかりクリアに立ち上がった。
もやが消え、私の前に今はっきりと、スーパーマンが現れた。ひでえ服だ。
1979年 日本配給収入トップ10
1位 スーパーマン
2位 ナイル殺人事件
3位 グリース
4位 ジョーズ2
4位 銀河鉄道999
6位 チャンプ
6位 エイリアン
8位 あゝ野麦峠
9位 男はつらいよ 噂の寅次郎 /俺は上野のプレスリー
10位 男はつらいよ 翔んでる寅次郎 /港町紳士録
※『ジョーズ2』と『銀河鉄道999』、『チャンプ』と『エイリアン』は同額で並んだ
自身の生まれ年である1979年のことを、私は長らく「それほど昔ではない」つもりで生きてきた。けれどさすがに40代に入ったあたりから、まあまあしっかりめに過去である、という印象にかわってきた。
トップ10の顔ぶれを見ても、遠慮なく「昔だな!」と思える。寅さんシリーズがこんなにも強い時代。
『あゝ野麦峠』は、作家山本茂実によるノンフィクションの映画化。寡聞にして知らず、明治時代、農村の娘たちが製糸工場での過酷な労働に耐えながら生きる姿を描いたものだとネットで検索して知った。本気の社会派作品がしっかり8位にいるのにも、時代の気配がある。

