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第298回

オレオレ詐欺・対面式。

[ 更新 ] 2026.02.10
十二月某日 晴
 堀江敏幸さんの丸眼鏡を、落としてしまう。落ちた眼鏡はそっくりの五つの眼鏡に分裂して畳の上にあるのだが、そのうちの一つが、わたしの持っている丸眼鏡であって、どれがどれなのかわからず困り果てる。
 という夢をみる。

十二月某日 曇
 発熱。三十八度。
 家にあった新型コロナ抗原検査キットで、いちおうね、と言いながら調べてみたら、すぐさま陽性となり、びっくりする。熱はあるが、喉もほとんど痛くないし、ほかに具合の悪いところもないからだ。
 お医者さんに行き、薬をもらい、午後には熱も下がったので、動きまわりたくて仕方がなかったが、しぶしぶ小さな和室にこもって、自主的に隔離。

十二月某日 晴
 隔離期間じゅう、ずっと読書。
 江國香織さんの新しい連作中篇小説集を読んでいたら、昨年行ったばかりの都市(アメリカ東部の大学町)が出てくる。そこに住む河童の話である。どうやら河童はその昔、日本から移住してきたらしい。
 そうだった、あそこにはなるほど、日本から移住した河童がいたな、たしか朝の散歩の時に会ったし、と、普通に思いながら読み終え、少し昼寝。
 目覚めてから、もうすっかり治ったのだから早く活動したいとぶつぶつ思う。河童のことも誰かに話したいし。

十二月某日 晴
 三日後、ようやく隔離期間があけ、隔離部屋を片づけ、服を着て、ふだんの生活に戻る。
 河童のことを思い返すが、プロビデンス(江國さんの小説に出てきたアメリカの大学町)には河童などいなかったことをはっきり思いだし、やはり三日前はまだ新型コロナは癒えていなかったのだと、ようやくわかる。

十二月某日 雨
 数名で忘年会。
 その中の一人がしてくれた話。
 三十年ほど前に、六本木で若い男性から、「オレだよ、オレ」と話しかけられ、「財布落としちゃってさ。一万円、貸してよ」と言われた。
 自分はあなたの知り合いではないので、一万円は貸せない、と断ると、「ええっ、こないだデートしたじゃん」と食い下がられた。が、すでにそのころは結婚していたし、むろん夫以外の男性とデートなどしたことはなかったので、断固として断った。
 それはもしや、何かの詐欺なのでは、と、中のもう一人が言うと、うなずき、
「これがたぶん、初期のオレオレ詐欺なのではないかと、最近思いあたって」
 と。
 なるほど、発祥のころのオレオレ詐欺は、対面だったのか……。
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