
第252回
妖精。
[ 更新 ] 2022.04.08
今月も、引き続き父がずっと滞在している。
夜、父が寝に引き上げたあと、家人と少しいさかう。
発端はどうでもいいことだったのだが、いさかっているうちにヒートアップしてしまう。
かたん、という音がしたので、いさかいを一瞬止めてそちらを見ると、パジャマの上にはんてんをまとった父が、にこにこしながら立っている。

「あれ、眠ったんじゃなかったの?」
と聞くと、
「いやあ、起きてしまった」
と、またにこにこしながらソファに腰かける。
いさかいがまだ途中なので、できるだけ普通の会話に聞こえるように、こそこそいさかい続けるが、ちんまりとソファに座って楽しそうにわたしたちを眺めているつるつる頭の父がそこにいるだけで、気がそがれて、いつのまにか和んだ気分に。
(父、妖精じみているぞ)
と思いながら、お茶をすする。
二月某日 晴
ロシアがウクライナに侵攻。
二月某日 曇
青年がホームでしゃがんでいたので、上着をかけてあげたら、青いかけらになってはじけ飛び、たくさんのかけらはすぐそばの茂みの下にもぐりこんでいった。
という話を、授業で発表する。
教室は、海の中。
という夢をみて目覚める。
少し、だるい。海の中の教室にいたからだろうか。

二月某日 晴
かかりつけ医で、三回目のコロナワクチン接種。
わたしよりも少し年上とおぼしき男性が、受付で、
「え? おれの年齢? 適当でいいよ。え? 何歳かって? しつこいねあんたも。じゃ、百歳ってことにしといてよ。え? 生年月日を教えろ? だから、百歳でいいって。どうせ政府はおれの歳なんか気にしないに決まってるんだから」
と、ごねている。
はじめて見るごねかただ……、スマホのメモ欄に、「百歳ごね」と、こっそり書きこむ。