
第248回
ル音で鳴きかわす。
[ 更新 ] 2021.12.09
緊急事態宣言が解け、突然「打ち合わせを対面で」「お酒など少しいかが」などというメールがしばしば来るように。
この日記の大きな主題である、友だちいない問題は、実は自分の思い過ごしだったのではないかという気分になり、昼ごはんに作ったキムチ焼うどんを、もりもり食べる。
予定を手帳に書きこみ、お腹も心も満ち足りる。
夜、手帳を見返したら、「お酒など」という誘いはたった一件で、そのほかはすべて「打ち合わせは対面で」だったことに気がつく。
おまけに、その「お酒など」にしても、友だちからの誘いではなく、仕事の準備をするための打ち合わせがたまたま夕方からになったので、それならば「お酒も」ということになったに過ぎないこともわかる(もともとわかっていたが、目をそむけずに向かいあった結果の認識)。
いつものことなので、特段がっかりもせず、就寝。しかし、夜中怖い夢をいくつもみる。

十月某日 晴
いよいよ「お酒など」の打ち合わせに。
外でお酒を飲むのは、いったい何カ月ぶりだろう。
駅まで行く道すがらに小さな森があり、その上空をカラスが群れをなして旋回している。
カラスたちは、ル音のまじった、甘えた声で鳴きかわしている。
今からカラスたちはねぐらに帰り、わたしはお酒を飲みに行くのである。
不思議な期待感と緊張感に包まれながら、カラスの旋回を見上げつつ、駅までゆっくりと歩く。
十月某日 晴
夜明けがた、緊急地震速報で目覚める。
昼間は、気温が上がって暑い。まだ三十度近くある。十月なのに。
買い物に行き、花屋の前を通ると、「ナマハゲパール」という名のダリアを売っている。
大輪の白い美しいダリアである。
家に帰って調べてみると、秋田県で作られた品種らしい。
緊急地震速報の音が、日中もずっと耳に響いていた心地だったが、「ナマハゲ」という言葉のおかげか、少しずつ静まってゆく。

十月某日 曇
仕事で銀座に行く。
ほぼ二年ぶりの銀座である。
仕事を終え、帰路につく。
三時間ほどの外出であったが、疲れきって帰宅。
完全に、イソップ童話の『田舎のねずみと町のねずみ』状態である。銀座で何か攻撃的なできごとにあったわけでもないし、仕事相手は親切だったし、電車だって昼間なのですいていたのに、疲れきり、そのうえ妙な興奮が去らない。
夜、ハゼ図鑑『決定版・日本のハゼ』を読む。きょろりとした眼のハゼ335種の写真を眺めているうちに、ようやく興奮が静まり、眠くなってくる。