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第251回

少し認識が。

[ 更新 ] 2022.03.12
一月某日 曇
 年末に録画しておいた紅白歌合戦を、晩酌の時にゆっくり見続けて三日間、ようやく最後までたどりつく。
 今回の紅白は、ラスボスが登場しないままRPGを終えた時のような安らかさがあった。
 全般にラスボスは苦手なので(強いから)、ストーリーの三分の二ほどまで達すると、ラスボスと闘うことから逃避するためにすべてを刷新し、最初からまた始める、といったことを繰り返してきたRPG人生だったなあ、そういえば……。
 紅白歌合戦を見終えたので、次は録画しておいた駅伝類にかかる。
 というわけで、この後十日くらいは、駅伝を見続ける予定。

一月某日 晴
 母が骨折して、入院。
 救急車をよび、受け入れ先を探してもらうも、なかなか見つからず。今年はじめに降った雪のため、骨折者がそもそも多く入院しているのに加え、コロナウイルスオミクロン株による入院者も多いためである由。

一月某日 曇
 せっかく入院できた病院だが、手術が三週間先になるというので、新しい受け入れ先を探し、転院。
 介護タクシーというものに、母と共に乗り、一時間ほどかけて新しい病院へ。
 ストレッチャーに寝たままの母が、時々「今どこを走ってるの?」と聞くので、グーグルの地図を開き、地名を読み上げる。知らない地名を読むたびに、母が不安そうな表情になるような気がして、少し涙ぐみそうになった時、母、
「介護タクシーって、乗り心地、最高ねえ。救急車は、あれよ、ありがたいんだけど、速度を出すから、体が跳ねちゃってねえ」
 と、あっさりした顔で言う。
 やはり年のいったひとたちにはかなわん、と思いつつ、記念に介護タクシーの内部の写真をたくさん撮らせてもらう。

一月某日 晴
 母の入院にともない実家からうちにやってきてずっと泊まることになった91歳の父と一緒に、見るのがのびのびになっていた駅伝の録画を、夕飯を食べながら見る。
「あの、ぼくは、少し認識がおかしくなっているのか?」
 と、父。
「駅伝は、たしか、お正月にやるものではなかったかな」
 はいそうです、でもうちでは、お正月が過ぎてからゆっくりとたんねんに見続けることになっているんです。と答えると、
「大変だねそれは……」
 と言われる。
 
一月某日 晴
 今日も駅伝を見ながら、晩酌。父も毎日五勺ばかりの日本酒を晩酌するのだが、最後の数滴を、なぜだかごはんにかける。
(も、もしかして、やはり認識が少しおかしくなっているのか……)
 と、どきどきしながら、
「なんで、かけるの?」
 と聞くと、
「だって、両方とも米じゃないか。最後は一緒にしてやらなきゃ」
 とのこと。
 そうですか……。
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