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第250回

魔空間。

[ 更新 ] 2022.02.09
十二月某日 晴
 新型コロナの感染が始まってから、少しずつおこなってきた家の中の整理にともない、棚や古い家庭電化製品やこわれた暖房機やらが家の中の某所に積みあがっていることは、もちろん知っていた。
 某所といっても、それはたいへんに狭い空間で、わずかばかりのスペースにそれらが不安定に積み重なり、すきまにはタンブルウィード状の埃がさらに凝縮して密度が三十倍くらいになったものがたまり、そもそもそこにものを積んだのは自分なのに、前を通るたびに、
「まあ、家の中に、なぜこのような魔空間が!」
 と、人ごとのふりをして毎回つぶやく、そんな某所なのである。
 新年を迎えるにあたり、いよいよこの魔空間を解体せんと決意。
 けれど決意したものの、人ごとのふりをした期間が長すぎたため、はっと気がつくたびに決意が雲散霧消している。

十二月某日 晴
 魔空間はわたしが作り上げたもの。
 という言葉を、毎朝十回唱えつづけて一週間。
 ようやく魔空間・某所に、正面から向かい合う心がまえができる。
 まずは某所に何が積みあげられているのか確かめるために、一つ一つのものを廊下に並べてみる。
 短い廊下はすぐさま埋まり、足の踏み場がない。
 ひっ、と叫び、すべてのものを急いで某所に戻す。

十二月某日 晴
 並べるからいけないのだと思い、魔空間を占めるものを、手帳に書きとめてゆく。
 それから急いで魔空間に背を向け、それらがどのゴミに分別されるかをチェックしてゆく。紙の上でなら、叫んだりひるんだりせず、粛々と分類や整理をおこなえる質なのである。
 三十分ほどかかって、手帳上でゴミ分類をおこなう。
 おおかたのものが「粗大ゴミ」に分別されることが判明したところで、タイムアウト(夕刻になり、晩酌の準備を始める時間となること)。

十二月某日 晴
 市役所に電話し、粗大ゴミ収集のお願いをするところまでたどりつき、今年のすべての義務を果たした気分に。
 まだ〆切が四つもあることは忘れたふりをして、いそいそとドラクエウォークのための散歩に出る。
 来年の目標は、「人ごとのふりをしない」。
 達成できないに決まっているのだけれど、目標が決まったことで、すっかりうきうきし、結局タイムアウト(繰り返すようだが、晩酌の準備を始める時間。しかもその時刻は、日に日に早まってゆく)の瞬間まで、ドラクエウォークにはげむ。
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