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第249回

さよなら音頭。

[ 更新 ] 2022.01.07
十一月某日 曇
 ここ数年買い替えあぐねていた冷蔵庫が、いよいよ弱ってくる。
 冷蔵室に入れているほぼすべてのものが、凍りついてしまうようになったのだ。
 温度設定を高めにしても凍るし、低めにすればもちろん凍る。
 冷蔵すべきものは野菜室に保存し、野菜は廊下に置き、冷蔵室の中には冷凍状態になってもよいものを入れる、という不思議な状態になってすでに三週間、いよいよ買い替えを覚悟する。
 近所のYバシカメラにゆき、選択の余地なくT芝の冷蔵庫を買うことにする。置く場所の幅その他が非常に特殊なので、すべてのメーカーのパンフレットを克明に見ていっても、二種類しか置ける冷蔵庫がなかったためである。そしてその二種類は、T芝のほぼ同じ内容量の二種類。ただし、選んだのは、扉の表面素材にガラスを用いた新しいタイプのものではなく、ガラス素材なしの、古くからあるタイプ。
 なぜなら、ガラス素材を扉にコーティングしたものには、マグネットをくっつけることができないからである。長年集めてきた大切なキノコやミイやヘムレンさんのマグネットが使えなくなるなど、言語道断なのである。


十一月某日 曇
 新しい冷蔵庫がくる。
 四時間何も入れずに冷やしたのち、粛々と冷蔵品・冷凍品・野菜などをおさめ、最後に扉にマグネットをくっつける。
 古い冷蔵庫が運びだされる時には、心の中で「さよなら音頭」を歌い、新しい冷蔵庫には、声にだして「ようこそ音頭」を歌った。ちなみに、古い冷蔵庫への音頭が心の中だけだったのは、運びだすお兄さんたちがぎょっとすると悪いと思ったから。でも、ほんの少しだけ、声に出てしまった。お兄さんたちは、知らないふりをしてくれました。ありがとう……。

十一月某日 曇
 ネットで、
「冷蔵庫にマグネットをくっつけるのは、風水上よくない」
 という記事を見つけ、青ざめる。しばらくくよくよするが、心の中で「風水さま許して音頭」を歌い、それでいいことにする。
 心の中だけで歌ったのは、声にだすのは風水さまに対して何か礼儀を失する感じがしたから。


十一月某日 曇
 二年ほど担当してもらっている編集者の性別が男性であることを、はじめて知る。
 新型コロナの流行が始まったため、一度も会えていなかったうえに、会っていないので電話で話すことも双方なんとなくためらわれ、連絡はすべてメールだったのだ。
 このひとは女のひとなのかな、男のひとなのかな、と、最初のうちは時々考えていたのだが、仕事にかんするやりとりも、メールのはしっこで少しだけ交わす世間話も、とても平穏にきもちよく進むので、すぐにどちらでもよくなったのだった。
 なんとなくいい話のような気がするので、ここに書いておく次第。
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