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第247回

木、など。

[ 更新 ] 2021.11.10
九月某日 曇
 インタビューを受ける。
 終わってから、インタビュアーY田さんの先輩である某氏(現在77歳)について訊ねる。
 某氏は、世俗とは馴れあわない孤高の俳人であり、その作句姿勢をわたしはたいへんに尊敬し、またその句が大好きなのだ。
「うーん、某氏は、パソコンを使わないので、コロナのこの時代、一緒に俳句の雑誌を作っている身としては、少し不便なのです」
 と、Y田さん。
「さすが孤高の俳人ですね」
「でも、スマホは持っているのです」
「おお、スマホを使いこなしていらっしゃるとは。でもまさか、絵文字などは使っていらっしゃらないですよね?」
「それが、使うんです」
「えっ」
「顔マークなどではなく、木、などですが」
「木、など」
 深く感銘を受けつつ、家路をたどる。


九月某日 曇
 実家に電話。
「最近ブームが来ちゃって」
 と、八十六歳の母。
「何のブーム?」
「鬼滅の刃」
「えっ」
「このところずっと再放送してるから、見ちゃった。もっのすごく、面白いのよね」
「……わたしは、見たことない……」
「今度映画の『無限列車編』をテレビ放送するから、もう録画予約も取ってあるの」
 七十代、八十代の人々のみずみずしさには到底かなわないと忸怩たる思いになり、早々に電話を切る。

九月某日 晴
 諸星大二郎展に行く。
 ゆっくり時間をかけて見て、のびのびした心もちになる。結果、このところの、「年上の人々に絶対的に負けている感」から、立ち直る。
 家に帰ってから「栞と紙魚子」シリーズを読み直し、登場人物の一人であるクトルーちゃんへの愛を確認する。
 そののち、諸星大二郎の年齢を調べると、「七十二歳」とある。
 ふたたび、忸怩たる気分になりかけるが、七十二歳ならば、自分と十歳は離れていないと自分をはげましつつ、
「いつか年上の人たちに追いつけますように」
 と、就寝時に祈りをささげる。

九月某日 曇
「カワカミさんのことを書いた興味深いエッセイがありました」
 と、編集者が雑誌を送ってくれる。
 ほう、と思いながらページをめくると、わたしがほぼ生まれてはじめて書いた、小説(らしきものに見えるが、まったくそうではない、二度と見たくない、いろいろ若気の至り満載のもの)が載っている同人誌を手に入れた、というエッセイである。
「やめてーーーーーーー」
 と叫び、ふとんをかぶり、エッセイの作者が一刻も早くその同人誌を焼き捨ててくれることを、強く祈る。
 就寝時、あと五回、同じ祈りをささげる。
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