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第245回

公式認定独裁者。

[ 更新 ] 2021.09.07
七月某日 雨
 浦島太郎には、二郎と三郎という弟がいた。
 という話を、いつ、誰に、聞いたのだか思いだせなくて、少しぼうっとしてしまう。
 前の日に新型コロナワクチンの第二回接種をしたからだろうか。熱をはかると、平熱よりも五分ほど高い。

七月某日 曇
 必要なことがあってパスポートを引っ張りだしたら、今年の三月に切れていた。
 立川まで、パスポートの申請に。
 広い会場には、わたし一人しか申請者がいない。窓口と案内の人たちあわせて十人ほどは、換気のきいた室内で、静かに座って、あるいは立って、いる。
 この前申請をした時は、東日本大震災の数日後だった。あの時は、街全体が暗くて、やはり会場はすいていた。
 総計十分ほどで手続きはおわり、電車に乗って帰る。接種のためか、今日もまだぼうっとしている。四十年ほど前、中野のあたりでふらりと入った居酒屋で、お客さんたちが定期的に「紙相撲大会」を開いており、その日がちょうど千秋楽の日だったことを、突然思いだす。

七月某日 雨
 行く予定だった少し遠い場所での仕事が、新型コロナの感染状況がよくないため、中止になる。買っておいた切符を払い戻してもらいに、駅へ。
 乗る予定は明日なので、キャンセル料金を取られると思っていたら、
「コロナによるキャンセルの場合、前日でも百パーセント払い戻しします」
 とのこと。
 嬉しいような、申し訳ないような、どうしていいかわからない気持ち。
 帰り道、今年はじめてのカナカナの鳴き声をきく。

七月某日 曇
 友だちからLINE。
「このたびジョージアのタマダの認定を受けました」
 とのこと。
 タマダ? と首をひねっていると、続けて、「ジョージアのスプラ(宴会)の基本ルール」というものが送られてくる。
 いわく、
「タマダ(宴会の司会者)とはスプラの支配者で、良い意味での独裁者である」
「タマダに先んじる乾杯厳禁」
「タマダが喋ると全員静聴」
 などなど。
「じゃあ、今日からあなたは独裁者?」
 と送ると、
「そのとおり」
 との答えがくる。
 ちなみに、認定したのはジョージアの大使館。友だちが公式認定独裁者になる日が来ようとは……。
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