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第15回

お金と大人

[ 更新 ] 2022.09.28
 吾輩は個人事業主である。法人成りはしてない。従業員および扶養家族はゼロである。ゆえに税金、財務、保険まわりも全て自分が取り仕切り、毎年一人で確定申告をやって一人で提出している。つまり、自分の財政について全て自分で、完璧に把握しているということだ。そういうことになるらしい。そういうことでいいんだよね。そういうことでないとおかしいんだけど、しかし、ぜんぜん分かってない。お金のこと。今口座にいくら入ってるのかくらいしか把握してない。何がどうなってどうやって毎日メシを食っているのか、毎月どれくらい稼いでどれくらい支出してるのか、あんまりよく分からない。98円のバナナを買うのに悩みながら1万円近くするフィギュア(MAFEX/ Star Wars The Mandalorian: ディン・ジャリン with グローグー)(私は今ディンさんに夢中)の予約をしている。でもなんとかなるよなと思っている。先のことは先の私がやるので、フィギュア代も未来の私が問題なく払うだろう。たぶん。
 41歳。同級生には家を建てたり買ったり車を買い替えたりするやつが出てくる年頃である。そういうなんか住宅ローンの……なんかの話とか、あとアメリカ航空宇宙局みたいな名前の……積立のやつ……あれの話とか……株? 外貨のなにかをアレするやつとか……ふるさと納税? 牛肉もらえるやつ? の話とか……みんななんかしてるけど……既読スルーしている。なんも分からないので。この世には私の知らない学校があり、私以外の人はみんなそこであることを習っている。そうとしか思えない。みんな、どこで身につけてくるの? そのお金に関する知識……。
 知識がないということは、さまざまなことにノーガードということだ。ディフェンスをしない状態で楽に生きていけるほど私が金持ちなのかというとまったくそんなことはなく、生まれてこのかたずっと貧乏である。ていうか、周囲を見ても金を持ってるやつほど、小銭に厳しいし締まり屋である。だから金が貯まるのか。卵が先か鶏が先かみたいな話になるな。
 他のことはともかく、お金に関してはちゃんとしないといけないなーとずっと思っている。アリとキリギリスなら確実にキリギリスタイプであり、何かというと「いつ死ぬかわかんないし」をキャッチコピーに己の浪費や収入の少なさを甘やかし、借金と日雇いで綱渡りしながら月を超えたことも一度や二度ではない。こんな生き方を続けていたら遅かれ早かれ立ち行かなくなることは間違いない。でも、なーんの勉強もしてないし対策もしていない。
 先日、ほとんど仕事の宣伝アーカイブとしてしか使っていないFacebookの投稿を整理していたら、どうも今年の8月で専業になってちょうど10年が経ったらしい。その前からも兼業でちょぼちょぼ物書きの仕事はしていたのであんまり“節目”感はないのだが、さすがに10年も一つの仕事をやっていると、それなりに技術ちゅうか知識ちゅうか、スキルのようなものも鍾乳洞みたいに積み重なっている(はず)。が、しかし、同じくらいのキャリアがあるはずの経理・経済まわりのことは、な~~~~んも成長していない。
 さすがにやばいんではないかとフリーランス向けの経理の本など買って読んでみる(それも「マンガで分かる!」系のやさしいやつ)んだけど、どうしても頭に入らない。書いてある日本語そのものは理解できるんだけど、それが片っ端から目の粗いザルですくったように頭からこぼれおちていく。学校から離れてだいぶ経ってるので、自分が勉強がぜんっぜんできないタイプだったのを忘れていた。特に数学関係はびっくりするくらい成績が悪くて高校を卒業できたのが奇跡扱い(試験で3点取って追試で0点取ってたりしてた。本当にどうやって卒業したんだ?)されていたのを完全に忘れていた。マズいぞこれは。今さら青くなっても遅い。
 こういう場合はどうしたらいいんでしょうね? と他業種だがフリーランスとしては先輩の知人に相談したら、「その勉強するぶんの時間を使って倍稼いでプロに丸投げしろ」というたいへんタメになるアドバイスをいただいた。それができれば苦労しねえわ! と思いつつ、道はそれしかないんだろうなとも思う。しかしこういう商売、倍稼ぐっつったってそうなかなかうまくはいかないのも事実。普通の製造業だと生産量を上げたりコストカットをするといいらしいのだが、小説の場合、生産量をアップしても買ってくれるところがないと話にならない。自分は10年のキャリアはあるがその間無冠、無賞、無ヒットの三無い生活で、どうやって食ってるのか編集者にまで訊かれる始末である(自分としてもナゾ)。ただやみくもに書いたって欲しがってくれるところがあるのか分からない。だいたい今の時点でキャパシティ的にはぱっつんぱっつんだ。書くのがむちゃくちゃ遅いのだ。これをなんとかするためにはクローン技術で私を5人くらいに増やして書かせるしか道はない。絶対全員サボろうとして最終的には殺し合いになるだろうからこれも非現実的な対策だ。
 じゃあ次はコストカット、つまり「節約する」というのがだいじだろうなと思い、いやいやながら毎月何にお金を使っているのかざっくり洗い出してみた。一番買ってるのは間違いなく本だ。78円の小松菜を買うのは迷いながら4950円の『マンダロリアン 公式アートブック』は秒で買っているし、文庫でも1000円越えがあたりまえの海外ミステリやBLマンガを大量に購入している。小松菜とスター・ウォーズやBLだと人生において重要なのは後者であるのは間違いない。小松菜はもやしで代用できるがディンさんやBLには替えがない。つまり、この支出の見直しは必要ないということだろう。
 次に、服と靴をけっこう買っている。ほぼ家から出ないんだからここは問題なく削れるだろう。しかしジョージ・コックスのパイソン柄タッセルローファーがある人生とない人生では、前者のほうがハッピーでカラフルなのは間違いない。私は幸せになるために生きているので、これも間違いなく必要な支出であろう。
 次にサブスクを始めとした映画・音楽にかけるお金だ。これは改めるまでもなく、必要な支出である。なんなら映画関係の連載も始まったし(『文學界』にて毎月「鑑賞する動物」という映画コラムを連載中。よろしくネ)経費だ。となると最後に残る一番でかくて削りたい支出は「税金」となった。税金、払いたくない。だいたいリターンに比べて高すぎるし払った税金の使い道もヒドすぎる。つまり私の経済状況を健全にするには、国に減税を訴えるのが最も有効な道という結論が導き出された。これで明日から億万長者だ。消費税やめろ。(以下次回)
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