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第5回

33個の真面目な餃子

[ 更新 ] 2022.06.10
 餃子を作ることにした。
 ここのところ何度か、あまりにも適当に作ったせいでおいしくなかったので、もうちょっと真面目に作らなければ、と思ったのだ。主な敗因は塩が足りなかったせいで、なんともしまらない味になってしまった。
 しかし餃子なんて、どう作ってもマズくならないと思っていたので、これは私が変わってしまったのか、それとも餃子が変わったのか……。答えは餃子であった。
 以前から私が頻繁に作るのは水餃子だったが、失敗続きなのは焼き餃子の方なのだ。
 水餃子は黒酢、砂糖、醤油、花椒粉、唐辛子などを混ぜたタレにつけて食べる。花椒や唐辛子が入るので味にパンチが効いている。また皮の滑らかさも手伝い、味つけが適当でも結構おいしく食べられてしまう。
 しかし焼き餃子のタレは醤油、酢、ラー油とシンプルなだけに、餡の味をしっかりつけておかないとおいしくないようだ。自作の皮は厚すぎるので、焼き餃子には市販品を使う。スーパーへ行けば、大判やもち粉入りなど、いくつも選択肢があるが、特に決まった銘柄はなく、包むのがちょっと面倒くさいな、と思う時は大判を買ったり、心が広くなっている時は数十円高いもち粉入りを買ったりと、その日の気分で選んでいた。
 しかし先日、中野へ行った際、麺や餃子の皮を製造している大成食品という会社が月に一度のセールをやっていたので、33枚入りの餃子の皮を買った。その時、この皮はグループ会社の八幡製麺所のものなんですよ、と教えてもらったのだった。
 
「次はおいしいのを作るぞ」と思っていたので、作る前に、家にあったウー・ウェンさんの『北京小麦粉料理』を確認した。ウー・ウェンさんの焼き餃子(锅贴)は中国式でタレは使わず、そのまま食べるタイプである。それを参考にして私も塩胡椒、醤油のほかに、甜麵醬とオイスターソースも少し入れることにした。野菜は家にあった白菜と葱を使う。
 挽き肉は買ってあったが、ウー・ウェンさんは薄切りの豚バラ肉を刻んでいたので、豚バラも刻んで挽き肉に混ぜ、すりおろした生姜とにんにくも少し入れた。材料を合わせてよく練り、数時間寝かせた。
 包んでしまえば焼くのは簡単だ。テフロン加工のフライパンと蓋さえあれば、誰だってパリパリに焼ける。油をひいたフライパンに餃子を並べ、水を適当に入れて蓋をし、蒸し焼きにする。
 こうして真面目に作った焼き餃子は、皮はパリパリ、中身はしっとりジューシーで、久しぶりに満足する出来であった。
 
 そして今回の皮は33枚入りだったが、思えばスーパーで買う餃子の皮も25枚、23枚など、割り切れない数のものがよくある。これはいったい、何人で食べることを想定しているのだろうか?
 ひとりで33個は多すぎるから、やはり複数で食べることを想定しているのか。2人だったらひとりあたり16個と17個? 3人だとちょうど11個で割り切れるから3人前?
 そういえば、外で食べる餃子は一皿、いくつだったろう?
 調べてみると、「餃子の王将」は6個、飯田橋の名店「おけ以」、神保町の「神田餃子屋」も一皿6個のようだ。亀戸の「亀戸ぎょうざ」は5個だが、この店は最低二皿がデフォルトだから10個か。厚い皮が特徴の「ホワイト餃子」は一皿10個のようだ。
 6個か、10個か。この違いはもしや、ご飯と一緒に食べるかどうかの差では?「おけ以」や「餃子屋」の餃子はご飯のおかずになるタイプの餃子だ。ホワイト餃子のように、分厚い皮が米に匹敵するボリュームだと、ご飯を食べる必要を感じない(若者は違うかも)。
 ご飯のカロリーと餃子4個分のカロリーが同じだったら面白いな、と試しにまた調べてみた。餃子の王将の餃子は一皿346カロリーとあるので、一つ約57.7カロリー。4個で230.8カロリーだ。では白米はというと、農林水産省のウェブサイトによれば、ご飯茶わん一杯(約150グラム)は約240キロカロリー。おお! その誤差は10カロリー以下! 偶然……だろうか?
 では、市販の皮の枚数は……というと、これはおそらく、家族構成などを考慮しているのではなく、値段とコストからはじきだされた枚数だろうと想像した。しかし、本当のところはどうなんだろう? と思い、八幡製麺所さんへ話を聞きに行くことにした。
 
「餃子の皮の数ですか? 今まで意識したことがありませんでしたね」と営業直売部門の部門長で、製麺技能士である深澤公仁きみひとさんはおっしゃいつつ、やはり枚数は、ひと袋あたりの生地の分量と1枚あたりの枚数を割ったものだという。
 ここの皮はもともとの創業者が、四川料理の料理人、陳健民氏(陳健一さんのお父さん)と共に開発したもので、今も当時のまま、粉の配合も作り方も変えていないそうだ。業務用の受注生産が主で、取引先は中華料理店が多い。中国人のシェフも太鼓判を押す味だという。
 一部、成城石井や明治屋(そして、いつも中国人客でにぎわう池袋の中国食材店、友誼ゆうぎ商店でも見つけた。中国人シェフが太鼓判、も納得だ)など、小売店に卸している皮は、直径約10㎝、一枚あたりの重さは約10g。一袋が350gなので一袋35枚前後となる。私が食べた工場セールの商品は特別仕様で、少しだけ皮が厚く、33枚だったのだそうだ。
 実は、私はこれまで、市販の皮はどれも同じようなものだと思っていた。水分が少なく硬めで、包んでいるとすぐに皮の端が破れてきてしまう。しかし八幡製麺所のは伸びが良かった。自作の皮は決して市販品のように均一には伸ばせないが、生地が柔らかいので多少、形が変でも簡単に包めるのが良いのだが、この皮は厚さも一定で薄く、なおかつ包みやすかった。
 試しに餃子の皮の水分量を調べてみると、グリコのウェブサイトに、機械で作る餃子の粉の割合が載っていた。小麦粉が100に対し、水が32とある。『北京小麦粉料理』では小麦粉が200gで水が140ml。市販の皮の水分量は自家製の約半分。市販品が硬いのは水分量が少ないせいではないだろうか?「いや、粉と水の割合はうちも同じようなものですよ。皮の違いは、粉の配合によるものだと思います」と深澤さん。
 基本的な餃子の皮の材料は小麦粉、水、塩とシンプルである。それだけに粉は重要で、各メーカー、使う小麦粉も配合も違い、それぞれ企業秘密なのだそうだ。八幡製麺所で使うのは中力から準強力粉くらいの小麦粉で、ずっと同じ製粉会社で配合してもらっているという。
 小麦粉の種類というと薄力粉、中力粉、強力粉という3つの分類だけで、たとえば薄力粉ならどれも同じ、と私などは考えがちだが、本当は産地や品種などで、味も品質もかなりの違いがあるのだ。
 そして皮の硬さについては、製造からの日数も関係あるだろう。パンも同様だが、小麦粉で作った食品は、日が経つにつれてどんどん硬くなる。流通販路の広い大手メーカーの賞味期限は1週間以上と長いが、八幡製麺所では小売りのものでさえわずか5日だ。賞味期限を延ばそうとすると、酒精(エタノール)などの保存料や添加物が多くなる。ちなみにプロの人たちは、使わない分はすぐに冷凍してしまうそうだ。
 実際に作っているところも見せてもらえた。小麦粉と水、塩を混ぜ合わせ、攪拌し、伸ばすところまでは機械で行い、型抜きから重さを計って袋詰めするところは手作業で行う。小麦粉と、生地同士がくっつかないようにする打ち粉の匂いだろうか、冷房のよく効いた工房の中は、微かながら爽やかな香りがする。
 伸ばしたての、とても柔らかそうな幅広の生地を何十枚も重ね、円柱状の金属の型で素早く一気に抜く。経験が少ないと丸く抜けず、楕円形になってしまうそうだ。それを手で軽くまとめて重さを計り、袋詰めをする。
 出来たての皮はすべすべと滑らかで、かつガラスのような繊細さだ。袋詰めしてから一晩寝かせて出荷する。抜いた後の、残った生地はどうするのですか? と尋ねると、もう一度まとめると品質が変わってしまうため、残念ながら廃棄します、とのお答えだった。これはちょっともったいない。何か有効な利用法があると良いのだが。
 そして、八幡製麺所のように小規模で餃子の皮や麺を作っている会社は、嬉しいことにまだ東京にもあるし、日本中にあると思う。「それぞれの製麺所はみな、自分たちの配合や作り方に自信を持って作っていますよ」と深澤さん。「市販の皮はみなどれも同じようなもの」ではないことが分かったので、これからはそうした製麺所の皮を見つけたら試してみよう、と思う。
 
 というわけで、製造現場まで見学でき、枚数の仮説も立証された。しかし実際は、25枚入りだろうが33枚入りだろうが、袋を開けたら、その日のうちに全部包んでしまい、食べない分は冷凍してしまうので悩むことはないのだが。今回も初めから、13個食べて20個は冷凍、と考えていたのだが、おいしかったので、ついもう10個、追加で食べてしまった。これでは、体重増加を少しでも阻止すべく、先に食べたしめじと舞茸のホイル焼きの効果は期待できない。でもいいや。明日、体重が数百グラム増えたところでいいじゃないか、そう思う。真面目に作った23個のおいしい餃子は私に、伸び伸びとした気分をくれたのだ。おいしい! と思うことにはこんな良さもある。
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