第6回「お金持ちの親戚と節約の知恵などを語る問題」

 金銭感覚やお金にまつわる常識は、人それぞれ。環境や性格、そして何より収入によって大きな違いが生じます。もちろん、何が正しくて何が間違っているという問題ではありません。ただ、違う感覚や常識を持った同士、ありていに言えば明らかに収入に差がある同士がお金に関係する話題をかわす場面では、お互いが微妙に気をつかってしまいます。
 気をつかうのはお互いさまとはいえ、より考えておく必要性が高いのは、「ないほうの立場」としての振る舞い方。たとえば、お正月なりお盆なりに、お金持ちの親戚の家に行ったとしましょう。世間話の中で、節約や買い物といった話題が出ることはよくあります。語り方を間違えると、困った展開になったり情けない気持ちを味わったりする羽目になりかねません。
 というわけで今回は、お金持ちの親戚を相手にお金の話題を語るときに発揮したい大人のお金力について考えてみましょう。親戚に限らず、ケタ違いに稼いでいる友達の場合にも、同じノウハウが使えそうです。

「格差」から目をそらして語り続けたい

 帰省のときにたまに顔を合わせる親戚と、共通の話題はそう多くはありません。「遠くから帰ってくるとお金がかかる」という話になったとしましょう。通常の話の流れとしては、
「新幹線のチケットは、金券ショップで買うとけっこう違うんですよ。あと、最近はケータイで買うと割引きがあるし」
「高速道路の通行料は、ETCだと時間帯によっては半額になるんですよ。ただ、距離の制限があったりして、ちょっと前で降りなきゃいけなかったりするんですけどね」
 といった「節約の知恵」を披露して、そりゃ助かるなあとか、そりゃ賢いね、などと言われながら話をふくらませるのがセオリー。しかし、相手がお金持ちの場合、話している途中で、
「こんな話、この人たちには関係ないよなあ……。節約なんて気にしたことないだろうなあ……。貧乏臭いと思われそうだなあ……」
 といった思いが頭をよぎります。それはきっとおおむね間違いではないでしょうが、しかし、ひるんではいけません。うっかり、
「そんなセコい節約なんてしませんよね。安月給だと、いろいろたいへんですよ」
 なんて言ってしまったら、場の雰囲気が一気にギクシャクしてしまうばかりか、日頃から念入りにひがんでいるように見えてしまいます。
 相手だって「たいへんだなあ」と思ったとしても、露骨に顔に出したりはせず、いちおう「それはいい方法だね。今度やってみるよ」ぐらいのことは言ってくれるでしょう。その配慮に応えるためにも、金銭感覚や生活水準の「格差」からはあえて目をそらして、
「いやあ、そうなんですよ。正規の料金と比べたら、お弁当代ぐらいは軽く出ますからね」
 と平然と熱弁をふるい続けるのが、お金がない側としての意地の見せどころ。そもそも、こっちは悪いことをしているわけではありません。お金があろうがなかろうが、「節約」という行為は「正しいこと」のはず。正義の威光を信じれば、きっとなんとか乗り切れます。
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ゴージャスな話題にどう相づちを打つか

 なんせ話題は限られていますから、向こうから「最近、○○を買った」といった買い物の話題が出るケースもよくあります。応接間に巨大なテレビが置いてあって、「新しいテレビですね」と話を振ったら、
「なんか地デジがどうしたこうした言ってるから、思い切って買っちゃったよ」
 と、少し嬉しそうに答えたとしましょう。心の中で「さすがお金持ちは違うなあ」「まだ何年も先の話なのに、まんまと店員の口車に乗せられちゃって」といった意地悪なセリフが浮かんだとしても、それはグッと飲み込んで、
「いや、すごいなあ。やっぱり、これだけ大きいと迫力が違いますね。いいなあー」
 などと思いっきり持ち上げるのが、モヤモヤした根の深いうらやましさや理不尽さを最小限に抑え付ける近道。こちらの賞賛に気をよくした相手が、つい油断して、
「どれでもよかったんだけど、店員が『ちょっと値は張るけど、このメーカーのがやっぱりいいですよ』って言うもんだから」
 と、さりげない金持ち風を吹かせたとしても、カチンと来ている場合ではありません。無邪気な自慢をガッシリと受け止めつつ、
「いやいや、結局はいいものを買うのがいちばんオトクですからね」
 そんなお望みどおりのリアクションで、相手をさらにいい気持ちにさせましょう。
お金持ちとお金がらみの話をする場面では、あくまで大人な態度を貫くことこそが、さまざまな邪悪な感情に見舞われたり、みっともない顔を見せてしまったりしないための何よりの予防策。相手がニンマリする様子を見て、こっそり勝った気になってもかまいません。大人のお金力で、格差の壁に無難に立ち向かいましょう。ま、格差の壁を乗り越える力にはなりませんが……。

【問題】

田舎に帰省して、お金持ちの親戚の家を訪ねた。そこの叔母さんが「都会でひとり暮らししながらの会社勤めはたいへんでしょー」と言ってくれたが、その家にも別の都会で学生をしている息子がいる。さて、どう答えるか?

[1]「家賃が高いのには参りますね。まあ、ほかはどうにかなりますけど」
[2]「おかげさまで、何とかやってます。そうだ、○○君は元気ですか?」
[3]「○○君も△△にいるらしいですけど、仕送りたいへんですよね」
[4]「ウチの実家は援助してくれる余裕がないから、もうキツキツです」

答えと解説

 たまに会う親戚と、心から楽しく和やかな会話をかわすのは至難の業。とりあえずは、どうにか形を整えるのが大人のスタンスです。この場合も、向こうはこっちの生活ぶりを本気で気にしているわけではなく、おそらくは都会に住む人に対するお約束の質問として言っているだけ。[1]のように具体的に実情を説明しても、あまり意味はありません。
 それよりも、その家の息子が都会にいるという絶好のネタがあるんですから、そっちの方向に話を転がしたいところ。質問には適当に答えつつ息子のことに話を振っている[2]も、まあ、それなりに手堅い対応ではあります。ただ、この際こっちのことはスルーして、一気に息子の話題に踏み込んでいく[3]のほうが、大人としての思い切りのよさにあふれているし、相手も嬉しいに違いありません。
 一見、お金持ちに対して仕送りのたいへんさを聞くのは愚問のようにも見えますが、そこは大丈夫。お金持ちはお金持ちなりに、わざわざ「そうなのよ、たいへんで」と嘆く気持ちよさを味わってくれるでしょう。[4]は、そもそもその了見からして問題外です。

[1]-1点 [2]-3点 [3]-5点 [4]-0点

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石原壮一郎

石原壮一郎

1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、93年に『大人養成講座』でコラムニストとしてデビュー。独特の筆致とスタンスが話題を呼び、以来、日本の大人シーンを牽引し続けている。
主な著書に、『大人力検定』『大人力検定DX』(文春文庫PLUS)、『父親力検定』(岩崎書店)、『30女という病』(講談社)などがある。本連載では、「お金」という大人が避けて通れない難問に真っ向から挑み、このややこしい大人社会を生き抜くためのお金力を養うための画期的なヒントを浮かび上がらせていく予定。

カラスヤサトシ

カラスヤサトシ

1973年大阪府生まれ。会社員の傍ら漫画を執筆、95年にデビュー。03年から「月刊アフタヌーン」の読者ページの欄外に、身の回りで起こったおかしな出来事や思い出をエッセイ風に紹介した四コマ漫画・「愛読者ボイス選手権 特別版」を掲載、その独特の作風が反響を呼び、06年には連載ををまとめた単行本『カラスヤサトシ』(講談社)を出版(現在3巻まで発行)。その後『萌道(もえどう)』(竹書房)を出版。
本連載では、会社員生活とフリー生活で培った金銭感覚をもとに、独自の視点でお金にまつわる諸問題に挑む予定。