第5回「エコを口実にした母親の無駄遣いを止めたい問題」
今の日本において「エコ」という言葉は、あの黄門様の印籠以上の絶対的な力を持っています。「エコだから」と言われてしまったら、そう簡単には逆らえません。
もちろん、先進国に住んで便利で豊かな生活を享受している私たちが、「エコな生活」だの「地球にやさしく」だのと言ったところで、結局は自己満足の域を出ないという一面はあります。しかし、エコという言葉を使うときに、そんな冷静で謙虚な反省は必要ありません。
いったんエコという権威にすがってしまえば、いろんな矛盾から目をそらせつつ、漠然とした後ろめたさを効果的に解消することができます。しかも、無条件にいいことをしている気分になれたり、エコに盾突く行動をする人を見下して優越感を覚えたりなど、ありがたいメリットがいっぱい。ああ、エコとはなんて素晴らしいのでしょうか。
というわけで、励みたい方はどんどん励んでいただければいいんですけど、地球にやさしいはずのエコが、時にサイフにはやさしくないこともあります。今回は「エコロジー」と「エコノミー」の両方のエコがぶつかり合ったときの、適切な対処法を考えてみましょう。
「買い替えたほうがエコ」と言い出した
いっしょに住んでいる母親が、すっかりエコにはまっているとします。ある日、
「最近の洗濯機は、昔のに比べて電気も水も節約できるらしいわね。地球環境のために、思い切って買い替えようかしら」
そんなことを言い出しました。しかし、今の洗濯機だってまだ5年ぐらい前に買ったばかりで、少なくともあと5年は使えそうです。明らかに無駄遣いですが、
「毎日、電気や水を無駄に使いながら洗濯してるかと思うと、お母さん、胸が痛くて……」
と、すっかり買う気満々です。こういう場面で「お金がもったいないよ」と言っても、あまり効果はありません。エコな自分が嬉しい人にとっては、エコのために金銭的な負担を強いられることは、むしろ喜びでもあります。
それよりも、目には目を、エコにはエコを、という方向で攻めてみましょう。
「何かで読んだんだけど、あと5年使える洗濯機を捨てると、洗濯1000回分に相当する量のCO2を無駄にすることになるらしいよ」
そんな適当なデータを持ち出しながら説得すれば、考え直してくれそうです。ぜんぜん根拠はありませんが、「いかにエコか」を強調するデータも、ウサン臭いという点では似たり寄ったりだし、まだ使えるものを捨てるほうがよっぽどエコじゃないという大筋は、きっと間違ってはいません。
ただ、節約できる電気代や水道代を計算すると、数年で元が取れることになるケースもあります。古い製品を使い続けることで、もしかしたら損をしているかもという不安にさいなまれたときには、「まだ使えるものを捨てるのはもったいない」と自分に言い聞かせましょう。損をしている気分を埋め合わせるためなら、さっきまで反感を覚えていたエコ方面の口実も活用するのが、大人のしたたかさです。

買ってしまった場合の受け止め方
家電だけでなくクルマも、「まだ乗れるクルマでも、早めに買い替えたほうがエコ」と宣伝したりしています。そんな無茶な理屈、さすがに誰も騙されないだろうと思ったら大間違い。エコに目がくらんだ人は、「エコ」と聞いただけで思考が停止してしまいます。
母親に限らず、身近な人がそういう状態で無駄遣いをしようとしていたら、基本的にはさっきのように「まだ使えるなら、使い続けたほうがよっぽどエコ」という方向で説得を試みましょう。しかし、「エコだから」というのは表向きの言い訳で、単に買い物をしたいだけというケースもよくあります。その場合は、説得してもたぶん無駄。まんまとカモになる光景を目の当たりにすることになります。
「やれやれ」と呆れたり、無力な己を責めたくなったりもしますが、そんなときも大人のお金力を発揮して立ち直りたいところ。
「エコという付加価値が付いていることで、本人は大きな喜びや満足感を得ているわけだから、いわばブランド品を買ったみたいなもの。けっして無駄遣いとは言い切れない」
そんなふうに自分に言い聞かせましょう。本人はいいことをしているつもりで、実はブランド好きと同じ構図というところに、虚しさや滑稽さを覚えないでもありませんが、そこはまあ、人のことだから目をそらしましょう。
家族がオシャレなエコバッグをいくつも買ってきたり、高そうなマイ箸を得意気に持っていたりして「トホホ」という気分になったときも、同じ方法で乗り切れます。
大人のお金力を追求する上で、エコというややこしい強敵とどう付き合うかは、なかなか難しい問題。適当にあしらうか、見て見ぬフリをするか、あるいは、あえて懐に飛び込むか、場面に応じて自分なりの手なずけ方を模索していきたいものです。目指そう、エコに惑わされない大人なエコノミー!
石原壮一郎
1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、93年に『大人養成講座』でコラムニストとしてデビュー。独特の筆致とスタンスが話題を呼び、以来、日本の大人シーンを牽引し続けている。
主な著書に、『大人力検定』『大人力検定DX』(文春文庫PLUS)、『父親力検定』(岩崎書店)、『30女という病』(講談社)などがある。本連載では、「お金」という大人が避けて通れない難問に真っ向から挑み、このややこしい大人社会を生き抜くためのお金力を養うための画期的なヒントを浮かび上がらせていく予定。
カラスヤサトシ
1973年大阪府生まれ。会社員の傍ら漫画を執筆、95年にデビュー。03年から「月刊アフタヌーン」の読者ページの欄外に、身の回りで起こったおかしな出来事や思い出をエッセイ風に紹介した四コマ漫画・「愛読者ボイス選手権 特別版」を掲載、その独特の作風が反響を呼び、06年には連載ををまとめた単行本『カラスヤサトシ』(講談社)を出版(現在3巻まで発行)。その後『萌道(もえどう)』(竹書房)を出版。
本連載では、会社員生活とフリー生活で培った金銭感覚をもとに、独自の視点でお金にまつわる諸問題に挑む予定。


