第10回

「シェア子育て」の理想と現実をくぐり抜けたら何が見える!?
松尾力・真奈夫妻インタビュー(後編)

10-1-02.JPG左から真奈さん、玄くん、力さん。シェアハウスのリビングにて

 こんにちは。西日本各地での豪雨災害、そして全国に及ぶ災害レベルの猛暑のなか、「普通に暮らす」という前提は、いつなんどきでも覆されるものなのだ、という認識を否応なしに強めています。みなさん、いかがお過ごしでしょうか?

 7月に入って保育園に通いだした次女N美。入園後まもなくして突発的な高熱、そしてRSウィルス感染症と、座薬が手放せない辛い試練の日々が続いています......。とにかく咳き込んで、飲んだミルクも食べた離乳食も滝のように吐く!(妻曰く、「マーライオンのようだ」と)。別に胃腸が悪いわけではなく、赤ちゃんって身体が小さい分、消化器官も短いっていうか、それで、ちょっと咳き込むとすぐ上にあがってきて「ゲロッ」となるんでしょうね。
 かたや、長女M子は以前からくしゃみの後の鼻水爆発率がすごくて、医者からは「とにかく鼻を自分でかめるようにならないと、これは根本的には良くならない」と言われ、何度かお風呂で「ふんっ! ふーんっ!」って練習したんですが、そのたびに「えーん! できなーーい!!」とブチギレられて、親の忍耐力が試されるというか。
 そんな調子だから、N美が「コホッコホッ」っと咳き込んで、M子が「ファーッ......」っとくしゃみをしそうになると、妻と僕はそりゃもうものすごい勢いでタオルやティッシュをパスしあってはゲロと鼻水をスライディングキャッチするという、往年のワイヤーアクションシーン(しかもスローモーション)さながらの日々を送っております。

 さて、そんなてんやわんやの日々のなか、前回から「 "シェア子育て"の理想と現実をくぐり抜けたら何が見える!?」というテーマで、東京都文京区で子供のいるシェアハウスで生活する松尾力・真奈夫妻にインタビューしています。
 松尾夫妻は、荻窪に住んでいた当時から「おうちバル」という、家を友人知人に開く活動をされていたとのこと。もともと海外留学での寮生活経験もあるお二人はシェアハウスでの生活に憧れ、パートナーを探していたところ、松島宏佑(こうすけ)・さおり夫妻と電撃的な出会いを果たし、夫婦二世帯のシェアハウスを探すことに。その間に、真奈さんの妊娠が発覚し、急遽、「子育てシェアハウス」というコンセプトが浮上する。
 なんとか苦労して文京区に3LDKの物件を見つけたはいいが、しかし実際に住み始めれば、子育て以前に家族間の生活観の違いに戸惑うことに。またその家族ユニット内でも、相手家族の価値観を目の当たりにするなかで、「私とあなたでもそもそも違うよね」という、ある意味では当たり前の事実を再認識することになり......。
 そして、短期滞在者(新規シェアメンバー)も巻き込み、また松尾家に玄(げん)くんが誕生して以降は、より一層「子育てシェア」とは程遠い現実に直面しながらも、「住人それぞれにとっての真の理想の生活ってなに?」というお題に向き合うワークショップ形式の「家族会議」を開くことになった、という流れ。

 ということで、今回の後編では、その「家族会議」から導き出された結論を紹介しつつ、さらに新メンバーの加入をはじめ、家を様々な人々に開き続けるそのこだわり、またこれから訪れる大きな変化について語っていただきました。


《松尾家が住むシェアハウスのメモ》
・都内で会社員として働く20代後半の松尾力さんと、国家公務員の真奈さんが、同世代の友人である松島宏佑さん、さおりさん夫妻とともにスタートさせたシェアハウス。
・場所は東京都文京区の江戸川橋駅近辺の3LDKの賃貸マンションの一室。
・開始は2016年9月。取材は2018年5月なのでシェア生活は約1年8ヶ月経過。
・2017年3月に、松尾家に息子玄くんが生まれる。
・松尾家、松島家以外に、これまで子供のいる別の家族が期間限定で住んだこともある。現在は、独身男性のまきおさんも短期滞在中。
・ちなみに松尾夫妻は僕と一緒で、お二人ともコテコテの関西人。

■ガチな「家族会議」で、課題をほぐす!
真奈 これが今年の1月から2月にかけて、全部で4回開いた「家族会議」の際の痕跡です。玄がいくつか剥がしちゃって完全ではないけど(笑)。

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アサダ ひゃー。なんだかめちゃくちゃガチなワークショップじゃないですか(笑)。付箋、貼りまくってるし......。

 宏佑さんが企業研修のファシリテーターとかビジョン策定のコンサルタントをやっている人なので、まずは「お互いが求めている理想」をテーマに、かなりハードにやりましたね。宏佑さんにしてみたら「家はそういうの(仕事の考え)を持ち込む場所ではない」って考えていたと思うし、家では単純にくつろぎたいって言っていたし。だから逆にそのワークショップは、ある意味完全に「仕事モード」でやってもらって(笑)。
 とは言っても僕らもみんな仕事をしているから、なかなか時間が合わない。だから、年明け1月~2月、土曜の朝6時から8時まで2時間集中的にやったり、平日の夜11時からやったり。

 付箋に、とにかく理想の暮らしや風景を書いて貼っていくんです。そのなかでひとつ解決したのは、僕ら松尾家は「家を綺麗にしたい!」っていうのが最初からあって。それで、松島家はどちらかと言えば「そこに時間をかけるくらいなら、自分のやりたいことをしたい!」という意見で。
 じゃあそれならそこはアウトソーシングで割り切って、家事代行会社にやってもらおうと。その費用は両家で負担することにして、月いくらくらいまでならいけるだろうとか決めてね。でも実際に家事代行会社にやってもらったら、逆に僕らの方も「そんなに風呂をピカピカにしてもらってもなぁ......」みたいなこともあって(笑)。そこでわかったのは、僕ら夫婦は「掃除をしたい!」っていうよりは、「僕らの好きな感覚で整理整頓をしたい!」ってことなんです。

アサダ 掃除っていうよりは、片付けをしたいってこと?

 そう。それでまたそこから新しい結論を導き出しました。今は週1回、ベビーシッターに4時間来てもらっているんです。それで玄を外に連れ出してもらって、その間に僕ら夫婦が家を片付ける。4時間のうち3時間をそれに当てて、残り1時間は僕ら夫婦の自由な時間として当てさせてもらうと。僕らも子供がいるとなかなか二人きりになれることがないので。

真奈 1時間を自由に使わせてもらうっていうのは、ちょっとニュアンスが違うかも。考え方として3時間分は両家で費用を折半しているけど、1時間分はうちら夫婦で負担しているってことやから。

 そうやね。そうすることで全員、「いいね!」って感じになっていった。結局ベースになる思いは同じだったとしても、実際に一緒に住んでみると細かいところがやっぱり気になるし、その具体的なひとつひとつのエピソードが喧嘩のもとになる。それをちゃんと解決した方がいいなと。

アサダ そうやって生活の仕組みができていってるんやなぁ。いやはや、参考になります!

真奈 私は今月(取材当時の2018年5月)、ようやく育休から復帰したんですけど、それまではなんかとにかくストレスが溜まっていて「もうこのシェアハウスやめたい!」って愚痴をこぼしていたんですよ(笑)。問題の焦点が家事のことで、いろいろやってほしいことを、いちいち言葉にして言わないといけないのもほんとストレスで。それだったらシェアを解消して、うちら家族で好きな暮らしをした方がいいなって思ったこともありました。
 でも、4人で会議を重ねてお互いの思いをあぶり出していくと見えてくることもたくさんあって。例えば一口に「居心地がいい」って言っても、シーンによってその中身は違ったりするので、そういうのをわざわざ言葉にしながら共有していくっていうか。

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■「子育てシェアハウス」か? 「子供がいるシェアハウス」か?
 「シェア子育て」に対して、世間ではいろんなイメージがあると思うけど、実際問題どこまで助け合えるのかって思うところはかなりあって。聞こえはいいじゃないですか?

アサダ はい。確かに聞こえはいいし、理想的だし、そういうのしたいなってモヤモヤと考えてる人は結構多いと思う。子育てしながらバリキャリで共働きする家族の、ある種のソリューションとして。僕もやっぱり去年はじめてこの家に伺ったときに、「うわー、ここの家族生活ってどうなってるんやろう......!?」ってめっちゃ興味持ちましたもん(笑)。

 でもね、じゃあオムツを替えてくれるとか、一緒にお風呂に入ってくれるか、遊んでくれるかといったら、向こうもまずどうしたらいいかわからないっていうのが正直なところなんですよね。逆の立場だったら僕らもそうなった可能性がありますし。

アサダ それはそうでしょうね......。シェアする家族同士、お互いに子供がいたら要領がわかると思うけど、いざ「手伝う」ってなれば、子供がいる方の家族が相手の家族に「教える」わけじゃないですか? その関係ってなんかやっぱり「手伝ってもらう側に主導権がある」って空気が出やすいのではないかと。「子供に関してはこっちの方がわかってるから」っていうのが関係性として悪く影響する可能性もある。

 そういう意味ではようやく玄も1歳を超えて、だいぶ身体ができてきたというか。0歳のときってこっちも慣れてないし、子供がいない人からしてみたらなおさら「下手なことして怪我でもさせたらどうしよう......!?」ってなりますよね。
 でも最近はね、例えば日曜の朝でも子供は関係なく、めっちゃ早起きして動きまくっているんですが(笑)、僕らが疲れていてもうちょっと寝ていたいときとなんかは、新メンバーのまきおさんが一緒に遊んでくれていたりとか。少しずつそういうことができてきたかな。

真奈 そもそも「子育てをシェアしたい!」ってところがあったのに、「全然できてないやん! なんやねん!」ってツッコミたい気分が満載だったわけですよ(笑)。玄が生まれる前は「授乳以外はシェアできるよね」って気楽に思ってたんだけど、でも実際は全然できなくって。
 そこもワークショップをした際に意見を聞いたんですね。そしたら宏佑さんは「実は自分もやりたいことがあるから、正直言えば育児とかはできないし、しようとも思っていない」と。そこまではっきり言ってくれたから、「なんや、そうなんや!」って逆にスッキリして。

 そこからはこっちも「過剰に求めない」というスタンスが固まったんよね。最初にこのシェアハウスをするときのコンセプトとして「シェア子育てとかできたらいいよね」って話は確かに4人でしたんです。でもそれゆえに、そのコンセプトに僕ら全員が囚われすぎていたんですよ。だからこそ「で、いつになったら子育て手伝ってくれんの?」って気持ちになってしまった。
 向こうも向こうで子育てに協力したいとは言ったものの、やっぱり忙しいし自分のやりたいこともあるし、実際目の前に子供が登場したことで「何をしてあげたらいいかわからない」と戸惑うこともあったと思うし。

アサダ そういった「何もできない!」ことに対して、松島夫妻は罪悪感を持っている感じだったんですか?

 さおりちゃんは言ってたかな。彼女が「どこまでやったらいいかわからない」って発言をしたときに、宏佑さんが「いや、僕はやる気はないよ」って言って、さおりちゃんが「えー!?」みたいになってたんで(笑)。
 そこで一家族間でも差があるってことがわかって。そういう意味では、ワークショップも当初は、お互いの家族のなかでまず「うちの家族の意見」としてまとめてきたものを、「家族対家族」として言い合うってイメージだったけど、最近は家族というよりは一個人が自由に意見を言って、家族の間でも「えっ? そんなこと思ってたん?」みたいな意見を言い合える場にしてますね。

アサダ 「子育てシェアハウス」と「子供がいるシェアハウス」の違いってことですよね。この二つは随分違いますからね。「シェア」って言葉がどこにかかるかによって。

真奈 そうなんです! だからここの家は、ひとまずは「子供がいながら、お互いのやりたいことを追求するシェアハウス」ってことでいいのではないかと思いました。そこが定まって随分気持ちも楽になりましたね。

アサダ そこまで気持ちがすっきりまとまるまでに、随分対話を積み重ねたんですね......。

 はい。住み始めて1年半かかりました。

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■「開く」ことを担保する
真奈 こうしてここでの生活が落ち着いてきた今年の3月、もう一人(短期滞在の)住人が増えたんです。私たちより少し若い単身の男性・まきおさん。家事はできるし、子供ともすごく遊んでくれる人で。
 彼との出会いは、私がライターの勉強をし始めて、千葉県でやっていた「Local Write」という書くことを学び合う合宿に行ったときです。そのとき、子供がいると一人で合宿に参加するのは厳しいから、力にも一緒に来てもらって。まきおさんはその講座の1期生でサポート役として来ていたんですね。そこで空いている時間、一緒に子供と遊んでくれたりして、私たち家族と仲良くなってきて。その講座の新年会を今年の初めにこの家でやったんですよ。そのときにまきおさんが「今年の目標は、シェアハウスに住むこと」って言ったから、「じゃあここに住んだら?」って。

 僕らや松島家のように夫婦ではなく単身だから身軽で、何を決めるのも早い。しかも家事もできるからこのシェアハウスの安定感が増したというか、バランスが整ったって感じですね。

真奈 ここにはこれまでもたまに短期滞在者はいたんですよ。やっぱり人が一人増えるだけで家の雰囲気ってガラッと変わりますよね。それこそフリーランスの友人が「家の暖房が壊れたから2週間泊まらせて」とかそういう感じのこともありました。
 今私たちが喋っているところがリビングで、ここと地続きになっている8畳の和室がまきおさんの部屋なんですが、前まではほんとに数日だけ泊まる短期滞在者用のお部屋だったんです。例えばカウチサーフィン(※1)をして海外からお客さんが泊まりにきたりもしてました。それで、今も誰かが泊まりたいってときは、まきおさんの部屋の真ん中にカーテンをひいて、まきおさんとシェアしていただくという(笑)。

10-5.jpg世界一周中のフランス人家族がカウチサーフィンで遊びに来た時の写真。
一緒に餃子を作って食べている様子

アサダ マジか(笑)。しかも結構簡易な仕切りですね。これはかなりプライベートを気にしない人じゃないと厳しいと思うけど、まきおさん的には......?

 この部屋に泊まるお客さんは1日1500円という形でまきおさんに料金を払うんです。これがちょっとでも彼にとってインセンティブになるようなルールにしていて。彼が何でも柔軟に対応できる人だったから良かったですね。「なんならベランダでテント張ってもいい」って言ってるくらいなんで(笑)。

真奈 まきおさんが入るのは大歓迎だったんだけど、人の出入りがなくなってほしくないっていうのもあって。私たちとしては住人だけでなく、できる限りいろんな人が少しでも滞在できるような余地は残したいんです。そういう「場を開く」って意味では、最近はリビングでイベントもやっています。友人のライターによるライティング講座を月1でやったり、私が主宰している「霞ヶ関ばたけ」という、食や農業をテーマにした若手中心の勉強会をやったり。

アサダ そうやって縁のある人にここを貸し出すときって、金銭のやりとりはあるんですか?

 一応あるんですよ。プライベートなパーティーとかならいいんですけど、この場で外部の人からお金を取るような講座とかイベントをするなら、半日とか全日とかで値段は決めています。特にどこかのウェブ上で公開しているわけでもないし、あくまで縁のある人と相談のうえでやっているという感じです。

真奈 あと、やっぱり、育休中とか外に子どもを連れていっても落ち着けるところがないので、ここならゆっくり話せるし、よくママ友を呼んでいました。一回家に来てもらえたら他のママも「じゃあ今度はうちにくる?」って感じでお互い家に招くハードルが下がりますし。

アサダ ママ友は、こういうシェア暮らしに関してはどんな感想を言ってました?

真奈 初めて来られた人はやっぱり衝撃を受けるみたいです。でも「どんな感じか見に行きたい」って言ってくれるママ友もいるし。感想としては、まずやっぱり「広いね」と。「これなら子供が動きだしたときすごくいいね」とか。あとはたまに私の「シェアイライラ」を聞いてもらったりして(笑)、そうすると「私もそういうことがありそうだから、なかなかシェアとかできないわぁ......」ってリアルな意見をくれたり。

10-6.jpg真奈さんが企画する「霞ヶ関ばたけ」という勉強会を開催した時の様子

■「私たち」のこれから
アサダ そんなこんなで現時点で1年半以上、ここでシェア生活を送られてきたということですが、最後に改めて、最近の変化やこれからのことについてお聞きします。

真奈 私がこの5月に育休から復帰し、玄は保育園に通うようになりました。認可の保育園がどこも入れなくって、結局、職場が運営する保育園に預けています。

 今は僕が保育園に送りに行っています。迎えも週1、2回は行って。

真奈 今はだいぶいい感じになりましたね。これからの変化でいうと、なんと、さおりちゃんが妊娠しまして、12月に松島家にお子さんが誕生します! さぁここからどう変わっていくのか。しかも、今年の9月でここが更新の時期を迎えるんです。一応、このシェアハウスも「まずは2年で」って考えていたから、これからどうしようかなってことを近々話し合う予定です。

アサダ 松島家にもお子さんが! それはすごいターニングポイントですね。あと半年ちょっとか。

 僕はできたらこのまま住みたい。街も好きになってきたし、なにより玄がこうしていろんな人に囲まれる環境はすごくいいと思っていて。この子は生まれたときからこの家で、国も世代も超えていろんなタイプの人が出入りするのが当たり前。だから人見知りすることがこれまでなかったんですよ。誰に対しても果敢に近寄っていきますし(笑)。

真奈 私も、玄がもう少し大きくなって会話ができるようになったときに、親だけじゃない他の大人や子供とコミュニケーションするのはいいことだって思ってます。自分の視野だけではやっぱり狭いなって思うし。これからもここでの生活でストレスを感じることもあるかもしれない。でも、それでも玄と生まれてくるお子さんがいい関係になれたら、やっぱりそれはすごく嬉しい。

 そう。弟か妹かって感じやね。子供たちがどうなるか楽しみです。「家族」を超えたコミュニケーションのなかで育っていることがどう影響するのか。まさに「シェア子育て」という意味ではいよいよ次のフェーズへ突入となるか。

アサダ 改めて、どうもありがとうございました!

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 2回に分けてお届けしてきた松尾力・真奈夫妻のインタビュー、いかがだったでしょうか?  もともと子供が生まれることがわかっていてシェアハウスを始めたわけじゃなかったお二人。だから「困っているからシェアしよう」、「じいじ、ばあばも近くにいないし、だからこそ誰かとシェアしよう」という課題解決思考ではない。それよりも「っていうか、シェアって楽しくない!?」と言っていたら子供ができてしまってスタートしたわけなので、ある意味、「困難をどこまでも楽しみに変えようとする創意工夫」に僕は心を動かされた。
 その創意工夫のひとつが、住人だけでない友人知人や海外の方にまで家を開き、多様なコミュニケーションを巻き起こしていくこと。これだけでもとても労力のいることだけど、それはきっとこの場で日々を過ごす玄くんをはじめとした、お子さんたちの未来に何かしらの力を与えていくのではないか。

 僕はもちろん「シェア子育て」に興味はあるけど、お二人に話をうかがえばうかがうほど、どちらかと言えば「 "家族"というイメージ(の幅)がリアルタイムに書き換えられていく(拡張していく)」その「運動体」として、松尾・松島家のシェアハウス生活に面白さを感じた。「家族=世帯」という前提から、その世帯のなかでも個々人の考え方がかなり違うという、よくよく考えればしごく当たり前のことに改めて気づかされていくそのプロセスでは、お互いの問題設定や関係性の境界が溶け合っていくと言えばいいだろうか。そしてそのプロセスでは、きっと「"子育て"に対するイメージ」もまた、時間はかかるかもしれないけど更新されていくのだろう。

 こういったシェアの実践は歴史を辿ればものすごく珍しいわけではなく、かつてはフェミニズム運動などと連動して、子どもも含め様々な共同生活・保育の実践が展開されてきた。もちろんそういった先人たちの身を切るような社会実験はリスペクトするが、僕はとにかくより身近な事例として、かつ「成功例」として(いい意味で)語ることのできない、実践の渦中でガチガチに悩みながらやっているお二人の姿をこそ、この連載で紹介したいと思ったのでした。

 僕は昨年まで滋賀県大津市の長屋を借りて、妻と長女と猫と暮らしていたんだけど、ちょくちょく家を住み開いて、遠くに住む友人からご近所の方、またその方々の友人まで含めてワイワイと自分たちの家族の今を、いろんな方とシェアできていたのがやっぱりとても楽しかったんですね。
 でも......、今は東京に越してきて、また次女も生まれて、生活に慣れるのに必死で、(完全に言い訳だが)やたら仕事も忙しくて、妻に迷惑ばっかりかけて、生活を豊かに変えていこうという心の余裕も削がれていっている状態だが、こうして書くことを通じて、なんとか松尾夫妻のように「困難をどこまでも楽しみに変えようとする創意工夫」を忘れずに、これからも僕たちなりの「家族」として生きていきたいと思います。

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※1 旅先で宿泊先を探している人と、宿泊場所を無料で提供してもよいと思っている現地の人とを結びつける、コミュニティサービスのこと。詳しくは https://www.couchsurfing.com/