第5回

この街で、子どもと一緒に親も育っていくためのアクション
-長澤麻紀さんのお話-

 昨年11月、次女N美生誕。そして今年1月、長女M子が東京都小金井市のニコちゃん保育園(仮称)3歳児クラスに途中入園。そんな我が家は現在、子育てと確定申告作業にドタバタと追われております。

 そんな折に、M子がインフルエンザA型に罹ってしまって......。運悪く僕の長期出張の時期とダダかぶりしてしまい、急遽、新潟からばあば(妻の母)に来てもらうという、トランプで言うところのジョーカーを年始早々使ってしまうことに。そうこうしている間に妻もインフル感染! N美にうつらないように細心の注意を払うも、マスクを外して平気でN美にくしゃみを吹きかけるM子に冷や汗をかきながら、プチパンデミックを乗り越え......。まぁなんとかやっております。

 改めて。この連載は、子どもを授かったのちに避けて通ることのできない保育や教育、とりわけ仕事を続けるうえで最初に乗り越えるべき「保活」問題について、仮に保育園や幼稚園に入れたとしても「これは本当に子どものためになっているのか?」とか「この選択で本当に良かったのだろうか? 親の勝手な都合なのでは......?」といったモヤモヤとした自問自答を繰り返すなかで、働き方や暮らし方を多様に変容させながら、子どもだけでなく親も含めて「家族」が成長していく......、そんな様子をリアルタイムでお伝えしていくものだ(一文長い!)。
 もちろん僕の家族のことが中心なんだけど、今回から僕の友人家族のエピソードも合わせて紹介していけたらと思うので、引き続きご贔屓に。

■僕の仕事と、長澤麻紀さんとの出会い
 先日、ご近所の友人ママに「うちの息子が通っていた保育園の園長先生を招いてホームパーティーするんだけど、ご家族で遊びに来ませんかー?」とお誘いいただき、行ってきた。そのママの名は長澤麻紀(ながさわまき)さん(37歳)。僕と同世代でしかも関西出身。この閑静な東京・多摩エリアでベタベタな関西弁をなりふり構わず貫き通している(決してディスってません、シンパシーを感じているのです)、とても素敵な友人だ。

 東京学芸大学出身の彼女は、学生時代に兵庫県から小金井市に移り住み、近くの別の大学に通っていた現在の旦那さんと出会い、卒業後に結婚。都内の某アパレルメーカーにフルタイムで勤務し、現在、小学校1年生の長男R太くんと、1歳の長女S子ちゃんを育てる、なかなかのバリキャリママなのだ。
 そんな麻紀さんは、R太くんが去年まで通っていた地元の公立保育園の園長先生の子育てにまつわる哲学と情熱に惚れ込み、R太くん卒園後も交流を深め、ついに1月末に園長先生を招いての「子育て談義ホームパーティー」を主催したのだ。

 そもそも麻紀さんとの出会いは、僕ら家族が小金井市に転居するきっかけにもなったある仕事に端を発する。それは僕が2015年から3年間、ディレクターを務めた小金井市主催の文化事業(※1)だった。
 ちなみに僕の主な仕事は、全国各地の自治体やNPO、大学などと連携しながら、地域コミュニティと密接に関わるアート活動を、その土地の方々とともに進めること。そうして自分の暮らす街に愛着が芽生えたり、仲間が増えたりすることは、結果的に地域活性の一翼を担ったり、人と人との縁づくりに繋がったりする。こういう市民参加型の文化事業は、「アートプロジェクト」と呼ばれ、世間でもその存在が注目され始めているので、それはそれでぜひ知ってほしい。

 で、小金井市も例に漏れず2009年に、「この小金井市で、市民一人ひとりが"芸術文化で豊かな暮らし"を目指したまちづくりを進める」ことを目的にした「小金井市芸術文化振興計画」を策定しておりまして。そういったこともあって、地元のNPOと連携しながらアートプロジェクトをひとつ任せていただいたわけだ。
 具体的にどんなプロジェクトかというと、小金井市民が自分の日々の暮らしのなかで得た気づきを、絵画や立体物、言葉や音楽、写真や映像などあらゆる表現(アート)を手立てに形にし、美術館や劇場といったハコモノに限らず、広く街中で発表していくといった内容。
 「暮らしのなかで得た気づき」って言われても広すぎてなかなかピンとこないだろうから、もうひとつ参加者に共通したテーマが用意されている。それは、かつてはあったけど今はもうなくなってしまった建物や風景、人と人とのお付き合いをはじめとした、「この街の大切な記憶」だ。
 例えば、高架化に伴い変わりゆく「駅舎」の記憶、また防災無線の「時報の音楽」の記憶、市内南部を流れる自然豊かな「野川」にまつわる記憶など。こういった記憶を市民から集めてきて、展覧会を開いたり、街歩きイベントを実施したり。こんなことを3年間やってきたのだ。

 もうお気づきだと思うが、麻紀さんはこのプロジェクトの参加者のひとりだった。市報に掲載された募集情報を見て参加を決めたわけだが、参加の背景には、尊敬するお義母さんの影響があったという。
 もともと教員だったお義母さんは、早期退職して、余生を旅行やこれまで忙しくてやれなかった夢の実現にしっかりと使っていた。海外にオーロラを見に行ったり、朗読劇の教室に通いだしたり、ずっと演奏してみたかったアコーディオンを習い始め、検定まで合格したり。末期ガンと診断されたのちも、その活動のペースを落とすことなく、住んでいるマンションの自治会長として活躍し、地域の敬老会で歌の伴奏をしたり。
 亡くなる直前まで「やりたいことをやりきる」というその一貫した姿勢を目の当たりにした麻紀さんは、「この生き方はすごいし、とにかく周りまで楽しくしてくれたんです。自分も"忙しい"とか"今はまだいいか"とか言い訳せず、やりたいことにチャレンジするべきだと感じました」と後日、話してくれた。

makisan.jpg子どもたちと作った映像作品の前で話す長澤麻紀さん。手前の黒いのは僕。

 彼女の関心・テーマはずばり「子どもとこの街で楽しく暮らすこと」だ。彼女はそのテーマのもとに、尊敬する先輩ママに「子育ての記憶」について突撃インタビューしたり、R太くんをはじめとした近所の子どもたちと一緒に彼らの通学(園)路をビデオカメラを構えて歩きながら、「かつて子どもだった頃の自分の記憶」に向き合ってみたり。「アート」というある意味「多少変わったことをやっても許される(むしろ褒められる!)」機会を足がかりに、数々の「ヘンテコ子育てアクション」を起こしていくことになるのだ。ここからは、麻紀さんの具体的なアクション事例を紹介しよう。

■先輩ママの「子育ての記憶」をモチーフに作品制作!
 プロジェクト2年目の2016年夏、参加する市民メンバーとともに、JR武蔵小金井駅前にある小金井市民交流センターで、展覧会を開いた。タイトルは『想起のボタン -「私」の「記憶」が編みなおされる、市民ひとりひとりの生活展-』(※2)。
 ちょうどその時期、第二子S子ちゃんがお腹にいた麻紀さんは、以前から気になっていた、市内南部で開かれているママサロンに行ってみることに。麻紀さん曰く「そのサロンは平日の昼間に行われているんです。息子が保育園に通いだしてママ同士の知り合いは増えたけど、逆に言ったら保育園以外、家にいたり幼稚園に通わせたりしているママとの接点がまったくなくって。私、児童館にすら行ったことがなかったし、息子のときはすぐに職場復帰しちゃったからもうバタバタで。だから、娘の産休中のときは、ちょっとそういったママサロンを一度覗いてみようかなって思ったんですよ」。

 そこで麻紀さんは、「子育てサロン@SACHI」を主宰し、小金井市内で訪問型の子育て支援ステーション「ホームスタート」も運営する高橋雅栄(たかはしまさえ)さんと出会うことになる。ご自身も3人のお子さんを育ててきた50代のベテランママだ。
どんな思いをもってサロンを運営されているのか、またご自身のこれまでの子育て経験から見えた小金井の街の魅力とは? そんなことを聞くために、麻紀さんは高橋さんにインタビューを決行したのだ。

nagasawashuzai.jpg高橋雅栄さん(手前)にインタビューする長澤麻紀さん。 小金井市の地図に、子育てに関連するルートを書き込んでいく

 高橋さんは、お子さんが保育園児だった時代の、ママチャリ(電動じゃありません!)でとてつもなく急な坂道を上り下りし、保育園の送り迎えや、通勤、買い物をこなしていたマッチョな記憶を語りながら、麻紀さんが準備した小金井市の地図を指差して、当時の自転車ルートを教えてくれたという。
 同じ小金井市内といっても、麻紀さんはJR中央線の高架より北側、高橋さんは南側。でも、「ここを通るときに自転車の後ろに乗っている息子と歌を歌った」とか、「野川で子どもとこんな遊びをした」とか、「保育園のお迎えのとき、あえて回り道しながら帰ってきた」といった、どの母親にも(もちろん父親にも)ありそうだけど、普段それほど意識しない「子どもとのちょっとした遊び・秘かな楽しみ」についての共通する記憶を、麻紀さんは高橋さんのエピソードを介して想起したのだ。

 インタビューを終えた麻紀さんは、作品制作に取りかかる。実行したのは、「高橋さんの当時の子育てルートを記した地図とビデオカメラを持って、そのルートを自転車に乗って実際に回ってみる」こと。その記録映像を作品として展示しようという話になったのだ。
 実際には臨月が近づいた麻紀さんは自転車に乗ることができず、代わりに麻紀さんからみっちりとルートレクチャーを受けた旦那さんの長澤勇気さんとR太くんと僕とで、自転車にまたがって謎のご近所撮影旅行に出かけたのでした。

R君恐竜の穴発見.jpg 長澤ファミリーと一緒に、小金井の街を撮影する一日。 保育園お散歩コースをR太くん独自の視点で案内してくれた。(映像作品より)

 勇気さんは、「奥さんの謎すぎるアクション」に戸惑いながらも、僕といろいろ仲良くしてくれて、僕もR太くんと撮影の合間に公園でサッカーをしたり、一緒にアイスを食べたり。で、一日中一緒に過ごしていたら、徐々に麻紀さんとの馴れ初めを話してくれたり、R太くんが生まれたときに住んでいたアパートの場所まで案内してくれたりした。
 また、R太くんも普段保育園のお散歩でよく遊びに行く野川を、R太くんの視点で道案内してくれた。少し普段とは違う「モード」で、この街を家族で回ることで、親は子どもの知られざる姿を発見し、子どもは何やら大人同士(パパのお相手は得体のしれない怪しいおっさん、つまり僕なんだけど......笑)で普段話さないような思い出話をしているのに立ち会ってしまう。
 なんかうまく言えないんだけど、これってなんなんだろう。おそらく、「日々の生活では、改まって家族や子どもと話さないこと」がこういった謎の機会だからこそ、じわじわ言葉の端々に滲み出てくるというか。僕もまた、この日、長女M子とのことを振り返ったり、自分がこれまで住んできた大阪や滋賀での妻との生活を振り返ったり、忙しい日々の隙間にちょっとできた「エアポケット」のような不思議な時間を過ごしたのだった。

 後日この映像作品を観た高橋さんは、とても喜んでくれたらしい。「自分にとっての子どもと過ごした大切な時間」が、他人によって再現されるという不思議な体験を、快く楽しんでくださったのだろう。このようにして麻紀さんは、自分が暮らすこの小金井の街で、「子育て」を通じて、自分を伸び伸びと「表現」する経験を獲得していったのだ。

makisakuhin.jpg長澤麻紀さんの展示作品『自転車越しの小金井』。高橋さんの子育ての記憶を通じて、 長澤ファミリーの現在の子育てや家族の関係性がゆるやかに表現された作品だ。

■「子どものため」だけでなく、大人も自分を「表現」する暮らしへ
 「子どもとこの街で楽しく暮らす」。このテーマは簡単なようでいて難しい。この連載の読者の中にも、「そんなことより目の前の保活が......」とか、「夫婦共々、仕事と家事と子育てでいっぱいいっぱい!」なのは、僕自身がまさにガチンコで当事者だからよくわかる。いやぁ、ほんと毎日をただ過ごすだけでも、大変だよね。
 でも、僕はこの小金井市でのアートプロジェクトの仕事をきっかけに、麻紀さんをはじめ、多くのママパパが「子育てと遊びを絡め、この街の暮らしに彩りを添えながら根付いていく」様子に多数立ち会ってきた。そんな素敵な出会いもあったことで、僕はこれまでの東京と関西の2拠点ノマド生活を終え、この街に「仕事を通じて子どもとの暮らし方を考え、子どもと暮らすなかで仕事も高めていく」ような暮らしを求めて、「家族ごと」の転居を決めたのだ。

 麻紀さんは、この後、さらなる「表現」へと漕ぎ出していく。自分の家族だけで作るのではなく、他の保育園のママ友や子どもたちも巻き込みながら、やがてその表現は園長先生の目にも止まることとなる。詳細は次回へ!


※1 小金井市芸術文化振興計画推進事業「小金井と私 秘かな表現」。主催:東京都、小金井市、アーツカウンシル東京、NPO法人アートフル・アクション/助成:一般財団法人地域創造/企画制作:NPO 法人アートフル・アクション/ゲストディレクター:アサダワタル
※2 https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/13942/を参照。