センスのABC

岡尾美代子

良い一日

 会期はとうに終了しているが、水戸芸術館での「内藤礼――明るい地上には あなたの姿が見える」展で体感したことを、よく考える。
 内藤礼という芸術家の名前はもちろん知っていたし、豊島美術館の「母型」はいつか見に行きたいと思ってはいたが、実は彼女に関する知識はほとんどなく、作品を見るのもこれが初めてのことだった。まっさらな気持ちで「内藤礼」の世界に入っていけたのが良かったなと、今は思う(恥ずかしながら、水戸芸に行くのも初めてだった)。
 天井から自然光の差し込む真っ白な展示室に足を踏み入れたとき、自分の中でプクプクと何かが生まれてくるような感覚があった。最初に天井から小さなガラスの玉(時々、小さな鈴)が気泡のようにぶら下がった作品があり、その周りの空気が、清らかで、明らかに澄んでいて気持ちがいいのだ。そして満ち足りている。この場所を動きたくないと思うような、心が浄化されるような......、ここは「あの世」なのかな?
 たっぷりと水が張られたガラス瓶に、まんまるに膨らんだバラの蕾。目を凝らさないと見えない、天井から吊るされた1本の長い白い糸。生まれたての生き物の血管のような赤を、薄く、とても薄く、重ね塗り(だと思う)したキャンバス。あっちの世界とこっちの世界、生、トックントックン(心臓の音)、天、結界、そんな言葉が頭に浮かんでくる。あまりに繊細な作品に驚いたり、小さな発見をしたりしつつ、「内藤礼」界ツアーを堪能した気持ち。5月にあちら側に行ってしまった友人のことを何度も思い出し、そしてその気配も感じつつ(きっとあの場所にいたんだと思う。白いニットキャップをかぶって)。
 水戸芸を出てから、近くの手芸屋で展示で使っていたものと同じ鈴を売っていると、一緒に行った友人が教えてくれた。もしかしたら、鈴もキーワードのひとつだったのかな。もしそうだったら、個人的にはとても嬉しい。
 良いものを見せてもらった、と思う。その世界に触れられて嬉しかった。気持ちの良い天気だったし。水戸芸にも行けたし、この日は良い一日だった。そして特別な一日だった。

水戸芸に行った翌朝、なんと!友人は部屋の天井から白い絹糸を垂らしてみたそうで、「空間に不思議な気づきや緊張感がでました」と。私もこの作品が一番印象に残っていて、糸1本でこんな表現ができるのだと心が震えたのだけれど、家でやってみようとは思いつかなかった(笑)。今度、鈴をプレゼントしよう。

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2018.11.30
良い一日
2018.11.14
チャウチャウ、ちゃう。

PROFILE

岡尾美代子
(おかお・みよこ)

高知県生まれ。スタイリスト。
雑誌・書籍などさまざまな媒体のスタイリングを手がけるほか、
鎌倉で友人とともにデリカテッセン「DAILY by LONG TRACK FOODS」を営む。
『Land Land Land』『Room talk』『肌ざわりの良いもの』『雑貨の友』などの著書がある。

Instagram:@miyokookao  LONG TRACK FOODS