センスのABC

岡尾美代子

雨の日

 静かに雨が降っている。そんな天気の日が好きだった。特に用事もなく自由に過ごせるのであれば、パジャマ姿のままベッドの中で本を読んで過ごしたくなるような。電気はつけず、部屋は暗いままで、窓際の光を頼りにページを読み進める。薄暗い部屋で本を読んでいると、世界から隔離されて、お話の世界に深く沈み込んでいくような気持ちになる。そんな風に過ごす雨の休日を、以前の私は大切にしていた。心の安息日として。
 そんな大事なことを、最近の"かすかす"な私はすっかり忘れてしまっていたのだが、村上春樹の『騎士団長殺し』を読んでいて(かなり、今さらですが......)、ふと思い出したのだ。私の安息日、どこに行っちゃったんだろう、と。
 村上春樹の小説は雨の描写が印象に残る。今読んでいる『騎士団長殺し』も「雨の降る木曜日の夜だ」とか、「水曜日は朝から細かい雨が降ったりやんだり」「見えるか見えないかというくらいの細かい雨が」と、なんかね、雨が降っていて、そのせいか物語の世界がしっとりとしている。でもそれは傘をささなくていいくらいの雨なのだ(私のイメージでは、です)。
 大粒の雨が傘に当たる音や、"ザーッ"というよりは"ゴーッ"という表現の方が近い豪雨の音を聞いていると、頭の中が雨音に占領されて何も考えられなくなってしまう。だから大雨の日は嫌いなのだ。静かに優しく降る雨は心を癒してくれる。嘘をついてワニに皮を剥がれたウサギがガマの穂綿にくるまって休んだように。
 そういえば先日、帰省した時に行った高知県北川村にある「北川村 モネの庭 マルモッタン」でのガーデン散策も小雨が降る中でだった。ここは、柚子で有名なこの村の自然を生かし、フランス・ジヴェルニーにあるクロード・モネの庭を再現した施設で、ジヴェルニーではついに咲かなかった、青い睡蓮の花が今年も咲いたと地元でニュースになっていたのだ。以前、出来たばかりの頃に一度来たことがあった。その時は植物も植えられたばかりで、偽物感が強くて正直がっかりしたのだけれど、時間が経った庭は、自然なニュアンスが生まれてなかなか素敵な場所になっていた。それに雨のせいか、緑が優しい色に見えたのも良かった。部屋にこもっての読書もいいけれど、散歩も良いものだなと思った、そんな雨の1日だった。

ウィリアムストーンという種類の、青い睡蓮の花。モネにが見たらなんと言っただろう。

こちらは葉の上の、大きな水滴の、備忘録。『騎士団長殺し』の終盤に、雨についての素敵な記述があったことも、ここに書いておこう。

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PROFILE

岡尾美代子
(おかお・みよこ)

高知県生まれ。スタイリスト。
雑誌・書籍などさまざまな媒体のスタイリングを手がけるほか、
鎌倉で友人とともにデリカテッセン「DAILY by LONG TRACK FOODS」を営む。
『Land Land Land』『Room talk』『肌ざわりの良いもの』『雑貨の友』などの著書がある。

Instagram:@miyokookao  LONG TRACK FOODS